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短編小説 この場からは離れよう

 仕事になると足がすくみ、もう外へ出れなくなってしまう。そんな弱い自分すら責めてしまう。なぜ自分はこんなに脆い人間なのか。他の人と違って打たれやすい人間なのか。小さなミスが重なって自分のことが嫌になる。
 
 半年前に入った会社、直属の上司はいつも僕に怒っていた。いや僕に怒ることでまるでストレス発散していたかのように。


「先生、仕事を終えたばかりの金曜日の夜ですら、もう来週のことを考えてしまいます。休みの日もずっと仕事のことが頭から離れないんです。何もする気が起きなくて、ベッドでただひたすら横になっています。どうしてこうなってしまったんでしょうか?」

「うーん、それは気質によることもあると思います。ただ当然その環境というのが1番大きな原因でしょうね。金曜日の夜からもう来週のことを考えてしまうんですか。精神的に休まる時間ってありますか?」

「いやないです。四六時中考えてしまうので、休まる瞬間って持てないです。上司から手を挙げられることもあるので。」

「もちろん最終的に決めるのはあなた自身ですけど、僕はあなたがもうその会社から離れることを強くおすすめします。というのもそれはあまりにも過酷な環境です。上司が手を挙げようとしてくるんでしょう。それはもはや犯罪行為です。こんな環境では誰も続けたいとは思わないです。」

「でも次の会社が見つかるかどうか。」

「確かにその問題は不安に感じるのは分かります。でも今の環境ではこの先どんどん追い込まれていく。まずはご自身の気持ちを落ち着かせる為にも、今いるところからは離れて、その後にじっくり考えましょう。あなたは悪くない、環境が劣悪だっただけです。安心してください。」
 
 今思えば僕自身もなぜ自分だけという思いはあった。誰もが僕を攻撃の対象としていた。そうすることで全員が一致している、そう感じるときもあった。
 これまでは自分が悪いから、自分が皆に迷惑をかけているからと思っていたけど、そうじゃないかもしれない。

「分かりました。自分でもおかしいと思っていたので、ようやく冷静に考えられそうです。ありがとうございます。」
「とんでもないです。」
 
 確かに次に向けての不安はある。でもこのまま続けていては、僕の心は確実に潰れてしまう。今まではこの状況を冷静に見つめることが出来なかっただけ。
「仕事では生計を立てる。生きていくためには必要と言うのはありますけど、同時にその生活や人生が窮地に追い込まれているなら、やはりその環境にいることは適した状況とは言えないと思うんですよ。世の中には星の数ほど仕事がありますから。それに食い繋いでいくだけなら、単発の仕事だってあります。まずはそれから始めるなんてことも出来ます。ここからもう1度じっくり考えて進みましょう。大丈夫です、あなたのペースで良いですから。地獄の環境から自分の幸せを感じられる環境へ1歩ずつ歩んでいきましょう。」


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