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泣ける話 僕の側には

「俺将来どうなってしまうんだろうな。」
頭を抱えて何も手につかない様子。ここ最近ずっとこんな不安な気持ちを吐き出している。
「どうしたの?」
「だって僕等が学生だった頃から世の中が大きく変化しただろう。コロナもあって、社会も不安定でこの先5年10年どう変わるかなんて全く分からないんだよ。」
「確かにそうだけど。」
5年先10年先どころか1年先ですら見えない世の中だ。私達だけじゃない、日本全体が不安の中でもがいているような気がする。
その中で私達2人が出来る事は限られている。

「それに加えてAIとかの技術もどんどん発展しているだろ。僕のしているWEBデザインの分野だって、いずれAIに仕事を取られる。仕事がなくなったらどうしようか。」
「気持ちはすごく分かるよ。私のやっている看護師の分野ではまだ現場レベルで進出してきてはいないけど、それだって今後どうなるか分からない。でもなるようにしかならないんだから。」

分かっている、なるようにしかならないのは分かっている。でも僕は彼女のことを守ってあげられるのか、それが今の僕の最大の悩み。今の時代夫婦共働きで、共同で何かを進めていく時代。
でも僕の気持ちの中では彼女に生活の中で苦しい思いをさせたくない。

「ごめんな、俺がこんな小さな存在だから、情けない弱音を吐き出してしまって。」
「何を言っているのよ。私があなたと一緒になったのは何も今後大きな経済的価値とか社会的背景とかそんなもの期待してじゃない。この人だったら私のことを大事にしてくれる、私もこの人を大事にしたいと思ったから。だから結婚しようと思ったのよ。」
大事にするか、まあそれだけは他の誰にも負けない。僕にとって何より大事な存在だから。
「私のことを本当に大事にしたいと思ってくれるのなら、一緒に今後のことも悩ませて。2人で一緒で悩んでいけば良いじゃない。1人で悩んでいたら、さっきみたいにマイナスなことばかり思い浮かんで、ネガティヴな気持ちだけになってしまうと思うの。でもこれが2人で考えて悩んだらどうなると思う?」
「そうだな。分からなくなったら相手に聞くかもしれないな。どう思うってな感じで。」
「そうでしょ。そりゃあ2人で考えても分からないことだっていっぱいあると思うけど、1人で考えているよりずっと心強いと思うの。その方がよっぽど前向きに考えられる。」
「確かにな。1人じゃないもんな。1人だったらさっきみたいにネガティヴなことばかり考えてしまう。でも2人だったらもっと考えが広がるかもしれない。。肝が据わっているからな。」
「そんなじゃないわよ。ただ私も一緒に悩みたいだけ。置き去りにされるって悲しいのよ。」

そうか、1人じゃないんだ。置き去りにして独りよがりになってしまっていたんだ。それよりも彼女が望んでいるのは一緒に悩んで、一緒に進んでいくこと。僕等はパートナーなんだから、どちらか一方に偏ることもない。これが僕等2人の生き方なんだ。
僕はこの人と一緒になって本当に良かった。この人とだから一緒にいたいと思ったけど、あの時そう思ったのは間違いじゃなかった。

「じゃあ今後どうなるか分からないけど、自分達が日々ちょっとずつ頑張っていこう。仕事も大事だけど自分達の生活を良くしていく為に、ちょっとずつスキルとか生きていく場所を模索していけば良いんだ。最近思っていたことだけど、何も企業の中でやっていくことだけが全てじゃない。僕達2人ならやっていける。」
「うん。でもこれから2人じゃなくなると思う。」
「えっ?という事は?」
「赤ちゃんが出来たから、この子の為にも幸せな家庭を築いていきましょうね。」


最後まで読んで頂きありがとうございました。
小説家の藪田建治でした。


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