世界を夢みた落ちこぼれ高校生
学校帰りに、近くの書店の旅行関連コーナーをじっと眺めながら何かを探していた。
あれでもない、これでもない。
あの写真はいったいどこの国なんだ?
SNSで一度見ただけの記憶を頼りに世界中の土地を紙面上で旅していた。
どこを見てもあの写真とはちがう。
探しているうちにあることに気がついた。確かあの写真は海が綺麗だった。海のある地域を優先的に調べれば良いのだ。
探していた写真は透き通るような海にヨットが浮いていて水面にヨットが反射しているとても穏やかな写真だった。
いくつもの本を手に取っているうちに直感でここだという写真があった。
サントリー島。
たぶんここだ。そう思った。
それからウキウキしながら帰宅した。
探していた場所が見つかったのだ。
前日、彼は一つ年下の彼女とSNSを見ながらたわいもない会話をしていた。
年齢も性別も違う多くの人が自分の思いを文字にしたり4枚の写真を投稿したり、自分の近況を伝え合っている。
特に高校生の2人にはカップルで旅をする青年たちのオシャレな写真はとても魅力的に思えた。
その一つにその写真はあった。
「ここ綺麗。行ってみたい。」
彼女はスマホの画面を見ながらつぶやいた。
そうこれがきっかけで次の日学校終わりに書店をぶらぶらと散策することになったのだ。
家に帰り、すぐにネットで検索をかけた大人2人、外国へのチケット。
検索結果は僕には現実を突きつけた。
飛行機代だけで数万円。
部活ばかりしてバイトもしていない高校生には無理な金額だ。
次の日も学校終わりに同じ書店の同じコーナーを眺める。
何か他に方法はないのか。どうにかして旅をしながらお金は稼げないのか?
幼いなりに頭をフル回転させる。
学校帰りに書店による。そんな生活が数日経った。一ヶ所ではなくて何ヶ所も書店に足を運ぶ。
そんな時に棚の上の方にある一つのタイトルに目がとまった。
世界一周。
今までずっとアメリカやイギリスなど一つの国単体で情報を調べることが多かった。
だからこそ、一度にいろんな国を旅するという発想は新しかった。
そんな旅行の仕方もあるのか。この時初めて何か探しているものを見つけた気がした。
部活もしているのになぜ毎度毎度学校終わりに書店に行くことができるのか?
答えは簡単。部活をサボっていた。それだけ。
10年間、情熱を傾けてきた部活がうまくいかず、チームメイトともうまくいかず、この時から少しずつ情熱は消えていった。
それもあって彼女にハマり、その人を喜ばせるためにだけ情熱を傾けていたのかもしれない。
でも、この時は少し違ったのだ。
彼女を喜ばせるために始めた情報収集のはずが、いつのまにか自分自身が惹かれる新しい世界への一歩になっていたのかもしれない。
棚の上にある世界一周と書かれた本を手に取り、帰宅して夢中で読んだ。
その中にある1人の美容師の旅の話がその後の少年の人生を変えた。
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