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学生村という名の民宿

今から40年前のこと。私は大学受験を翌年に控えた高校3年生だった。
高校生活最後の夏を友達と過ごした当時の思い出を書いてみたい。
夏休みをどう過ごすかは今も昔も受験生にとって重要なことだった。私が通っていた高校でも都内の予備校で夏期講習を受ける人、学校が実施する補習授業を受ける人、自宅で勉強する人など様々だった。
しかし私が取った方法はそのいずれでもなかった。信州の民宿に籠って勉強するという選択をしたのである。当時「学生村」という名で呼ばれている民宿村が全国各地の山間部や海浜部の避暑地に点在していた。夏場の暑い時期、避暑も兼ねて涼しく静かな場所で勉強したい大学受験生を対象に格安で机、椅子、ベッドのついた部屋を貸してくれていたのである。今、こんなシステムは存在するのだろうか。
信州の学生村にひと夏滞在した間に埼玉、大阪、東京、京都など全国各地から来た高校生達と親しく交流できた。勉強ばかりやっていたわけではなく、時には花火大会や近所の墓地まで肝試しに行ったり、宿に置いてあった卓球台で皆と卓球に興じることもあった。中には即席のカップルが出来て勉強そっちのけで近くの観光地へデートに出かける人もいた。また以前学生村で勉強し現在は上智大学、東京大学、成城大学、一橋大学などの大学生になっている「学生村OB」が懐かしんでひんぱんに宿を訪れてくるのには驚いた。中には毎年来ている「OB」もいるとのことだった。皆受験生時代をここで過ごしたことが懐かしくてくるのだと宿を経営するおじさん、おばさんから聞いた。少し年上の彼らの大学生活の話は興味深く参考になったし、上智大学生の方には本番レベルの
英語の問題を出してもらって直接指導を受け実力をつけられたことは本当に有難かったと思っている。暗い受験生時代ではあったが確かに私たちは青春していた。あれから40年。今、皆さんどこで何をしていらっしゃるのだろうか。

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