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2023年日本・ノルウェーの戦略的パートナーシップについて:その意義

少し前のニュースであるが、日本・ノルウェーの首脳会談により、両国間関係を戦略的パートナーシップに格上げするという報道があったので、その意義について考えてみる。

あまり興味を引かれにくいタイトルかと思いますが、この記事を読めば、世界の大きな流れのなかでの日本と北欧諸国の立ち位置がざっくりと分かります。

日本とノルウェー:渋い外交戦略

現在の日本の世界戦略において、ノルウェーの重要度は必ずしも高くはない。捕鯨国同士での連携という意味では重要かも知れないが、日本が重視すべき枠組みであるQUADやG7、自由で開かれたインド太平洋という側面からみれば、その重要度は下がる。

けれども、「一見重要性が高くない国」にも足場をつくる、ということも外交における重要な役割であり、二手先、三手先を考えたときにその足場が役立ってくる場合がある。今回のノルウェーとの友好関係深化についても、先を見据えた「とても渋い外交戦略」として評価したい。

ノルウェーは言うまでもなく北欧諸国の一つであり、実は日本は地味に北欧諸国との関係強化を進めている。

同じ北欧諸国のフィンランドとスウェーデンがNATO加盟申請をすすめているが、すでにノルウェーはNATOに加盟している。

従って、日本とNATOという関係性でみれば、ノルウェーはNATO加盟の北欧の雄いうことで、その存在感は大きくなる。ノルウェーとの関係深化はすなわち、日本がNATO内で存在感を高めるための重要な橋頭堡ともなるのである。

NATOをめぐる地味な戦い:フランスVS日本


日本にNATOの事務所を開設するか否かをめぐって、フランスと日本のあいだには地味な攻防がある。

フランスは、特にマクロン大統領は、NATOのアジア進出に対して懐疑的な立場である。けれどもロシアに近接するバルト三国や北欧諸国はフランスとは異なり、「どちらかと言えば日本も入って欲しい」という立場である。

日本も、NATOとの連携を深めるにあたり、好意的な国々との間には布石を打っておきたい。

こんな思いが地味に交錯する、日本・ノルウェーの両国間関係格上げなのだろう。

日本・ノルウェーの首脳宣言の内容

上記を事前知識として、外務省が発表している首脳会談の内容をみてみよう。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/no/pageit_000001_00050.html

岸田総理大臣から、ストーレ首相の訪日を心から歓迎するとともに、初めて会談の機会を設けることができうれしく思う旨述べ、本日発出する共同声明を新たな基礎とし、具体的な協力を着実に実施していきたい旨述べました。これに対し、ストーレ首相から、日本とノルウェーの間には、長きにわたる友好関係があり、本日の会談を機に二国間関係を一層発展させていきたい旨述べ、両首脳は、日・ノルウェー関係を戦略的パートナーシップに格上げすることを歓迎しました。

また、岸田総理大臣から、両国はクリーン・エネルギー、グリーン移行分野、海洋生物資源の持続的利用等、幅広い分野において協力の潜在的可能性を有している旨述べ、両首脳は、これらの分野での連携を深めていくことを確認しました。

両首脳は、日・ノルウェー社会保障協定の締結に向けた政府間交渉を開始することで一致し、同交渉の開始を歓迎しました。また、両首脳は、ストーレ首相の今次訪日の機会を捉え、両国の関係当局間でグリーン戦略パートナーシップ共同コミュニケが署名されることを歓迎するとともに、両政府間の協力を通じ、両国間の経済関係の発展を後押ししていくことで一致しました。

岸田総理大臣から、ノルウェーとの間で安全保障分野における対話を深めていきたい旨述べるとともに、最近の日・NATO関係の大きな進展を歓迎し、NATO原加盟国であるノルウェーと緊密に連携していきたい旨述べ、両首脳は、安全保障分野における協力や日NATO協力の文脈における協力を一層進めていくことで一致しました。

外務省HPより

重要と思う箇所は太字標記にした。「日NATO協力の文脈における協力」というのがしっかりと入っている。

個人的に興味深いのは、「海洋生物資源の持続的利用」という文言があることだ。捕鯨のことも含まれているだろうね。

つづき。

岸田総理大臣から、国際安全保障環境が一層厳しさを増す中、欧州諸国、EU及びNATOがインド太平洋地域への関心及び関与を拡大していることを歓迎する旨述べた上で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくことが国際社会全体にとって極めて重要である旨述べました。また、両首脳は、いかなる力又は威圧による一方的な現状変更の試みも認められないとの認識を共有しました。

両首脳は、ロシアによるウクライナ侵略に関し、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続することが重要であり、一日も早く公正かつ永続的な平和を実現すべく、同志国の結束を維持して取り組んでいくことで一致しました。

両首脳は、東アジア情勢、取り分け、安全保障分野の現状についても意見交換を行い、核・ミサイル問題や拉致問題を含む北朝鮮への対応において、引き続き緊密に連携していくことで一致しました。

岸田総理大臣から、今般のハマス等によるテロ攻撃を断固として非難する旨述べ、両首脳は、ガザの人道状況の改善に資する人道的休止の確保及び事態の早期沈静化の重要性を共有しました。

外務省HPより

日本の生命線である「インド太平洋地域」への言及があるが、「自由で開かれたインド太平洋」という文言が「自由で開かれた国際秩序」という言葉に置き換わっていることにやや違和感を覚える。

「自由で開かれたインド太平洋:FOIP」という言葉に統一した方がいいのではないでしょうか、外務省さん?

まあ、全体を通して言いたいことはわかる。

両首脳は、安保理改革を含む国連の機能強化が重要であるとの認識で一致したほか、「核兵器のない世界」の実現に向けて引き続き連携していくことを確認しました。

また、両首脳は、共に海洋国家として、北極の持続可能な利用や、海運の脱炭素化を始めとする気候変動対策等において、引き続き緊密に連携していくことで一致しました。

ストーレ首相から、ALPS処理水の海洋放出について、日本が科学的根拠に基づき国際社会に説明を行ってきていることを高く評価する旨述べました。

外務省HPより

原発処理水に関する言及を入れたことは、ファインプレーだろうと思う。日本は情報戦におけるこういう地味な積み重ねが下手なので・・・

ということで、マクロにはNATOとの兼ね合いから、ミクロには原発処理水の問題まで、日本・ノルウェーの首脳会談、個人的には評価したいと思うので、国際情勢を分析するうえでここに書きとどめておく。

(画像は写真ACから引用しています)


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