父と大根　私の

あなたがいなければ
あんな体験はしなくて済んだというものと
あなたがいたから
あんな体験が出来たというものがあり
後者にはたとえばおでんの大根でお茶漬けを食べるという行為があり
そんなことはきっと
あなたがいなければすることが出来なかった体験であり
それは父なのだけれど
その父もいつかはなくなる
私はその後にもおでんの大根でお茶漬けを食べようかなどと考えるのだろう
不思議だね
どちらへも転べるし歩けるのに
「あなたがいなければ」と言いながら
その先に
誰のことも恨まない道だってあったんだ
あなたがいたから
私は生まれて来た
暴力も暴言も怖かったし嫌だったけれど
最期に思い出すのはきっとこんなくだらないことなのかも知れない
あなたが大根でお茶漬けを食べるなんてそんなこと

父と大根　私の