鬼雨よ降って
早朝、強烈な雨が降った。覚醒しきらない意識のなかでも、一時間以上はゆうに降り続いたであろうことが把握出来た。この時間、いつもなら涼しいうちに飼い犬のソフトと散歩へ行くのだが、この日は先に朝ご飯を食べることにした。そうこうしている内、八時ごろには雨が止んだ。外へ出ると、いつもの厳しい夏の朝とは異なり、町中で行われた大規模な打ち水の効果を体感した。ひときわ目立っている縦に積まれた塔のような雲が季節を再認識させた。
散歩を終えて帰宅すると、家族にソフトを預けてまた外へ出た。コンビニでまとまったお金を下ろしてカウンターで各種支払いを済ませる。店を出たところで着信に気がついた。やっぱり駄目だ。そう思われた時、こらえられなかった。
相手の悪口を聞く時も、やっぱり二人で暮らしていくことにしたと聞く時も、いつも真剣に聞いた。態度に現れておらず、世間が認める理想の息子のそれではないかも知れないが、それでも過去の体験を踏まえれば、まだ赦される態度ではないかと知っている。私だけが。もちろん葛藤や怒りがあるので、さきの態度になるのだが、それでも最後には話をすることを選んで来た。振り回されて、心を痛めて、そのことに気がついていない人が自らの安心について語るのを聞く時、力が抜ける。涙が出てしまう。人と人にはわかり合えないこともあると知らない訳ではないのに、私はまだ何を期待しているのだろうか。
地上に出て見上げると
うろこ雲を背景に夏の名残
セキランが取り残されたように周囲から浮いている
今夏一番の
そして最期の
局所的鬼雨に撃ち抜かれたい
季節と 一緒に 消え去ってやる
そんな 気持ち
(「雷管」より抜粋)
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