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初めて観た舞台からは青春の息づかいが聞こえてきた

4月16日。池袋にあるサンシャイン劇場で、人生初めてとなる舞台を生で観ていた。

もともと興味はあったものの、なかなか観劇する一歩が踏み出せずにいた舞台公演。

そんななかSNSで見かけたのが、ヨーロッパ企画が主催する『鴨川ホルモー、ワンスモア』だった。

ヨーロッパ企画と言えば、『時をかけるな、恋人たち』で脚本を務めたことも記憶に新しい上田誠さんが代表の劇団で、これまで映画や舞台など、幅広い分野で話題作を生んでいる。

そんな彼らが、今宵の舞台に原作として選んだのが、万城目学さんが描く異色の青春活劇『鴨川ホルモー』という小説。

読んだのは高校生のときだったけど、ページをめくるたびに、真剣さと馬鹿馬鹿しさが共存した「ホルモー」の虜になっていた。

あと、京都の学生は賢いはずのに、阿呆な遊びにも全力を尽くしていて、メリハリのある楽しそうな学生生活だなと淡い憧れを抱いていた。

そんな高校生の頃に青春を抱かせてくれた『鴨川ホルモー』とヨーロッパ企画の共演とあれば、このタイミングを逃すわけにはいかない。

気づいたら、チケットを買っていた。

そこには鴨川の河川敷に広がる青春があった

この前、京都を訪れたときに撮った鴨川を添えて。

そして、当日。
客席は満杯だった。

まず驚いたのが、客層の幅広さ。

多くの人々が詰めかけた劇場は、老夫婦から若者たちまで、老若男女問わず、みんなが今か今かと舞台の幕が開くのを待っていた。

最初に宣伝や注意事項のアナウンスがあり、舞台の幕が開く。

もともと原作を知っていたので、内容はある程度、頭に入っていたものの、冒頭から鴨川の河川敷で10人以上の集団が、「ホルモー」という謎の言葉を中心に和気藹々と会話している光景は異様だった。

見かけたら間違いなく近寄りがたい集団。
聞き耳だけたてて、遠くから眺めるぐらいでちょうどよかった。

この登場人物大集合シーンの謎はのちのちに分かることになるのだが、この場面を最初に見せることで、観客たちは「ホルモー」という言葉が飛び交う会話に意識が釘付けになり、瞬く間に物語の世界観に取り込まれていったような気がした。

一枚の板の上で繰り広げられる群像劇

ちなみにサンシャイン劇場を訪れたのも初めてだった。

そこから、彼らがなぜ「ホルモー」という言葉に青春を捧ぐことになったのか、その背景が語られていく。

物語の進行にしたがって、舞台は鴨川の河川敷から、大学のキャンパスへ。はたまた主人公の下宿先の小さな部屋から、サークルの新歓が行われる大学生たち御用達の居酒屋へ。

一枚の板の上が、京都のありとあらゆる場所へと様変わりしていく。舞台の変化に着目するだけでも、充分に楽しむことができる。

そして、七変化していく舞台を青春の名のもとに駆け抜ける登場人物たちも、個性的という言葉では言い表せない十人十色の魅力があった。

主人公・阿部の頼りなさと、自宅で見せる謎の忍耐力。高村の馴れ馴れしさと振り切れた真っ直ぐさ。早良さんの普段の穏やかさとのギャップ。芦屋はリーダーシップと自己中心性が紙一重であることを教えてくれた。

個人的には、阿部と高村の部屋で行われる何でもない会話が好きだった。

あんな風に、特に考えることなく口にした他愛のない言葉のみで構成される、特に現状を変える力などありもしない不毛で意味のない時間こそ、大学生だけがもちえる特権だと思っている。

あとヨックモックが食べたくなるね。

息をつく暇もなく言葉が飛び交う会話劇

鍛錬しないと見えないはずのオニ。かわいい。

他にも印象的な登場人物がたくさん登場するのが、この物語の真骨頂。

新入生だけでなく、怪しいけどなぜかホイホイとついていってしまう魅力のある先輩たちや、大人気なく煽りにくる他大学のサークル代表たちもキャラが立ちすぎている。

そのなかでも、特に異彩を放っていたのが、芸人さんたちが演じるキャラクターだった。

「男性ブランコ」「かもめんたる」。2組とも熟練のコント師として知られている彼らが演じるのは、一癖も二癖もあるキャラクターたち。

物語の鍵を握るキャラクターでもある楠木さんに好意を寄せる松永を演じたのは、男性ブランコの平井さん。小説を読んでいたときは特に印象が残らなかった松永だったけど、この舞台ではかなり印象深く刻まれた。

楠木さんのバイト先を訪れた時に彼が言い放った「イタリアン料理店って聞いていたけど、王将みたいだね」は、この舞台でもっとも印象に残ったパンチラインかもしれない。

男性ブランコの浦井さんが演じるのは、三好兄弟と呼ばれる双子の片割れ。本当に双子なんじゃないかと思うくらい似ている2人が、片想いを通してだんだんとそれぞれの本性が滲みでて自我が芽生えていく姿は、サブストーリーとしても興味深かった。

また、かもめんたるのう大さんは圧巻の存在感。「そんな大学生いるわけないじゃないか」と思うほどの貫禄を醸しだしつつ、不意に放つ一言にはついつい吹き出してしまう。

かもめんたるの槇尾さんは、どの角度から眺めても女性にしか見えなかった。いつもYouTubeで見かける情けなさの面影もなく、最後まで龍谷大フェニックスの女傑を演じ切っていた。

ただ、本当にすごいと思ったのは、役を演じる全ての人のセリフがまったく被らずに、一言一句きれいに耳に入ってくること。

特に大所帯で吉田神社を練り歩きながら、謎のサークルの正体を先輩に問いただす場面は、会話劇のおもしろさと役者のすごさがぎゅっと詰まっていた必見シーンだった。

初めて観た舞台が『鴨川ホルモー、ワンスモア』でよかった

初めて観る舞台ということもあって、経験したことのないドキドキとワクワクを抱えていたけれど、ずっと笑いっぱなしの2時間に加えて、おまけのトークショーまで、とても楽しい時間を過ごすことができた。

自分が大学生の頃に味わった青春の残り香を感じつつ、その場所には、はっきりと鴨川の河川敷に広がる大学生たちの、馬鹿馬鹿しくてかけがえのない、彼らだけの青春があった。

また、舞台を観にいくその時まで。
彼らの姿を脳裏に思い浮かべておく。


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