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世界の工業3(繊維工業)

国が工業化する過程として、軽工業→重工業への推移があります。
イギリスで200年前に興った産業革命も、マンチェスターの綿工業から始まっています。かつての植民地だったインドから綿花を輸入していました。アメリカも同様に、アフリカから黒人奴隷を南部に連れてきて綿花を栽培させ、それをボストンまで運んで綿工業が発展しました。

繊維工業は、労働集約的なので、安価な人件費(=1人当たりGNIが低い)国で盛んになります。そのため工業化が進み人件費が上がると、その国の軽工業は廃れ、重工業に移行していきます。
日本でも、かつては綿工業を中心とした阪神工業地帯が栄えましたが、高度経済成長とともに機械類(自動車産業)を中心とした中京工業地帯が中心となりました。

繊維工業は、紡績(糸を作る工程)、織物(布を作る工程)、縫製(衣服を作る工程)の3つに分かれます。ではそれぞれの工程ごとに、世界シェアを見ていきます。

紡績

糸の原料には天然繊維と合成繊維とがあります。天然繊維は農産物、合成繊維は石油を原料とした工業製品です。

天然繊維:綿花、羊毛、麻、絹(シルク)など
合成繊維:ポリエステル、アクリル、ナイロンなど

生糸

天然繊維の例として、蚕から作られる生糸を見てみましょう。
データはこちらからいただきました。

2015年の国別生糸生産量

いつものとおり、生糸の世界生産のほとんどが中国です。
なお、綿花の国別生産量は以前こちらで書きました。こちらも中国とインドの2強体制となっています。

化学繊維

化学繊維の代表であるポリエステルの生産量をみてみましょう。データはこちらからです。ちなみに生産方法はこちらにくわしく紹介されています。

ポリエステルの生産量割合(2017年)

このように、天然繊維、化学繊維を問わず、紡績のほとんどは中国とインドで賄われていることがよくわかります。

織物

次は糸を布にする工程です。この工程は、どこで行われているのでしょうか。
データはこちらのWorld Integrated Trade Solutionから取得しました。
このサイトでは、HS 6-digitというコードを使って、様々な商品の輸出量や輸入量などを検索することができます。

まずは綿織物です。

綿織物
Fabrics, woven; containing 85% or more by weight of cotton, unbleached, plain weave, weighing not more than 100g/m2

やはり中国、インドが輸出額の2トップですね。
綿花栽培量と一致しています。

次は絹織物です。

絹織物

またもや中国、と思ったらイタリアでした。確かにイタリアは高級絹織物で有名ですが、輸出額が世界一だとは思いませんでした。フィレンツェが産地として有名です。いわゆるサードイタリーと呼ばれる概念です。中小企業や地場産業がネットワークを構築し、技術力を生かした一点物の高級品を生産しています。確かにシルクは高級品ですね。
トルコが3位にランクインしています。高級品で有名なトルコ絨毯の素材としても使われています。

縫製

布は最終的に衣服に加工されます。例として、男性用シャツの輸出額をみてみます。

中国は当然として、2位にベトナムが入っているのが特徴的です。ベトナムは社会主義国家であるため、経済発展が他の東南アジア諸国に比べて遅れました。しかし、ドイモイ政策によって市場経済が導入され、徐々に経済が上向きになってきました。安い人件費を使って軽工業が発展してきています。みなさんもシャツのタグを見るとMade in Vietnamをよく見ませんか?

衣料の世界は、日用品の側面とは別に、高級品・ブランド品のカテゴリもあります。世界のアパレル業界の動向を見てみましょう。
データはこちらからいただきました。

国別のアパレル業界の売上高を見てみると、アメリカが圧倒的です。その後にヨーロッパ各国が続きます。
これを企業別でみると、皆さんもなじみのある会社が出てきます。

クリスチャン・ディオールで有名なディオールが世界一です。LVMHはフランスの企業体です。LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンといえばもうわかりますね。ナイキやアディダス、Gapといったなじみのある会社もあります。日本企業では、ユニクロ、ジーユー、セオリーなどのブランドを持つファーストリテイリングが世界第9位の売上を上げています。
このように高級ブランドは先進国が押さえています。エレクトロニクス産業と同様に、製品開発や企画などは先進国で行われていることがわかります。

まとめ

工業分野は、国際分業が広がっています。かつては、先進国が発展途上国から原料を輸入し、工業製品を生産・輸出するという垂直分業が行われてきました。しかしこれによって発展途上国はモノカルチャー経済となり、南北問題を引き起こしました。
一方で先進国同士では、それぞれの得意分野を生かした水平分業が行われています。
1970年以降、発展途上国の工業化が進み、NIESと呼ばれる新興工業国が現れました。中でも中国はゲームチェンジャーとなりました。1990年以降、各国からの技術導入を進め、今ではあらゆる分野でのシェアを獲得し世界の工場となり、アメリカと並ぶ大国となっています。
日本を含む先進各国は、それぞれの得意分野を生かした付加価値ビジネスに移行しています。頭で稼ぐ時代と言えます。
日本は中小企業の持っている高い技術力を生かせば、新たな領域を広げられるはずです。その際には、サードイタリーが大いに参考になるでしょう。

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