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#1_8 アイドルと方針・ストーリー(Palette Paradeの『愛着』作り)

#1系統では「アイドルとは何か」をもとに、アイドルの歴史や存在意義みたいなものを深掘りしつつ、その価値提供、顧客体験の本質を探索していきたい。前回の記事ではアイドルのワンマンライブに着目し、真っ白なキャンバスの4周年ライブに着目しつつ、ワンマンライブに求められることをライト層・ファン層に分けて考えた。

今回は「アイドルと方針・ストーリー」と称し、前半でストーリーマーケティングとアイドルについて、後半でPalatteParadeさんのストーリー戦略について語る。

ストーリーマーケティングについて

そもそもブランドとは商品やコンテンツのイメージということができるが、生産者が意図したイメージを作ることは非常に難しいものである。
例えば吉野家が客単価の向上のために「高級感のある料亭」をイメージした1500円の商品を販売しても、どれだけコスパがよくてもその商品を注文する人は多くないと予想される。
それは、吉野家は「うまい・安い・早い」のイメージを持つブランドであり、これと高級志向は相容れないからである。
ただし、この高級商品の広告に下記のようなストーリーがあったらどうだろう。
「以前築地で食べた料亭の味が忘れられない。板前がお亡くなりになり、もう一切食べられない中で、どうしても味を最も多くの人に伝えたくて、イチ社員が商品開発から関わった。最初はだめだしの嵐だった板前の奥さんにもついに認められ、築地店限定で展開していたが、あまりの人気で今回満を持してい全国展開する。」
これを聞くと、この商品へのイメージが少し変わるのではないだろうか。

これをマーケティング用語で「ストーリーマーケティング」と呼ぶ。
ストーリーマーケティングの説明として「USPなどの特徴を訴求するのではなく、誕生秘話やそこへの思いなどを通じて、その商品の物語・アイデンティティに共感してもらう」手法といえる。

ここで共感ともに重要になってくるのは「愛着」である。
食前舌語も愛着を持って使い続けている本・ゲームキャラクターなどがいるが、それは何か素晴らしいメリットがあるからといった合理的な理由ではなく、何かしらの運命的な出会いがあったからといった情緒的な理由によるものが多いと感じる。

ストーリーマーケティングの特徴

ここで、ストーリーマーケティングの特徴を4つ押さえておきたい。

  1. 合理的な訴えをしない
    先ほども説明した通り、ストーリーマーケティングの一番の特徴は訴求する内容がUSPやメリットではなく、そのストーリーなのである。
    USPやメリットは常に競合との比較に追い込まれるが、ストーリーによる訴求は単なるこれらの横比較とは一線を画すことができ、個人に対してブランドイメージを大きく植え付けることができる。

  2. 消費者ニーズを理解する
    マーケティングにおいて当たり前のことであるが、ストーリーを語るとき特に自分語りばかりになってしまうことがある。相手にわかりやすい内容で、共感を得られる内容でなければならないことは当然であるといえる。

  3. 失敗を語る
    多くの場合で、失敗とはブランドの棄損につながるとして嫌煙されてきているものである。例えばマクドナルド日本法人の食品管理問題、その対応におけるブランドの失墜は2年連続の連結純損益を出すという、燦燦たる結果だったことは記憶に新しい。
    しかし、ストーリーマーケティングではあえて失敗の経験を語ることで、「ここまで公開してくれるのか」と逆に信頼を獲得することもある。

  4. 自分を投影できたり共感できる登場人物がいること
    また、2でも述べたところと共通するが、をの教官の中には「ブランドの創始者や当事者が自分を投影できるか」というのも重要である。
    例えば先ほどの吉野家の社員も、「祖父の喜寿のお祝いで行った」であれば親近感がわくものの、「週3で通っている」と聞けば金持ちすぎて教官にはならないだろう。

ストーリーマーケティングの実例

ここから少し例を紹介する。

  • Amazon
    一時期TVCMの出稿量も多かったので一部の人も覚えているだろうし、また2016年度のCM好感度ランキングで上位独占の携帯キャリア系CMから首位を奪った作品として知られる「ライオン」のCMを取り上げる。
    Amazonの強みといえば、「圧倒的な商品数をいつどこでも注文できること」「AWSをはじめとするデータPFとしての強固なスキル・キャパシティ」にあるといえるが、このCMではその訴求を言語で説明する場面はほぼ一切ない。
    あるものといえば「家族の幸せのために、Amazonができること」でしかなく、圧倒的にそぎ落とされたクリエイティブに多くの視聴者が共感し、好感を得た。
    このように、ブランドのアイデンティティを合理性を排除して、また消費者のニーズに合わせて伝えることで、ブランドの好感度の向上を達成した。

  • ジョブチューンに出る意義
    TBS系列で放送されているジョブチューンという番組の人気企画に、超有名企業の商品・メニューを一流シェフに旨い不味いを合格/不合格で判断してもらうという企画がある。
    その中には忖度など存在しないため、もちろんメニューの中には不合格になるものもあり、開発者が泣き始める場面もこの企画の醍醐味の1つである。
    一見するとこの企画、不合格になることのデメリットが大きいようにも感じられるが、実はそれは逆であるといえる。
    この企画、かなりの企業で「2度目の挑戦」があり、その結果一度不合格だった商品が2度目で合格になる、というドラマも起こっており、そのあたりのストーリーからも興味・愛着を抱く人が多いと考えられる。

アイドルとストーリーマーケティングの親和性

今まで何度か記載しているが、アイドルとは成長譚であるといえる。
そのため、そもそもアイドルとストーリーマーケティングの親和性は高いし、多くのアイドルが気付かずに実施しているものだと考えられる。
というのも、スキルだけでいえばやはり地上アイドルというのは地下アイドルより圧倒的に歌・ダンス・曲などで優れているといえる。それでも人は地下アイドルに通う理由は、そこに応援したくなる共感するストーリーがあり、「愛着」があるからであるといえよう。

ただ、これを意図してできているか、できていないかは大きな差であるといえる
例えば、以前分析した「タイトル未定」というアイドルでは、北海道と東京という2つの地域でそれぞれ密接に絡ませながら成長タイミングを別に作ることで、成長の密度を高めることができていた。
もちろん運営が「売れたい」という想いからアイドルを育てていくことは一つの方向ではあるが、その限界があるだけでなく、その成長が隠れてしまう危険性もある。
そこをいかに明確化して、かつファンに伝達できるかが重要である。

アイドルのストーリーマーケティング

ストーリーの分類

  • アイドルになるまでの背景
    1つはアイドルになるまでのストーリーを大きく出すことである。
    一番有名なものであればNiziUである。これは韓国の芸能事務所が作った日本の女性アイドルであるが、そのオーディションはFuluで公開され、さらに情報番組スッキリで特集が組まれるなどメディア露出も非常に多く、社会現象の1つとなった。
    オーディション番組は過去にも、日本でも多数の成功事例があるが、これを分析すればやはり「この子がアイドルになる前から応援していた」という一種の保有効果(一度所持すると手放す損失を過大評価すること)ともいえるが、それとともにアイドルという表面だけではなく、それまでの背景を知ることによって、さらに愛着を持たせられた結果と考えられる。
    地下アイドルではでんば組imcの『W.W.D』や、ZOCなども挙げられる。

  • 成長としてアイドルになってから成し遂げたこと
    これは主に実数で追えるものと追えないものの2つに分かれる。
    まず追えるものとしては「会場の大きさ」「SNSのフォロワー」である。会場の大きさはよくアイドルが「武道館に立ちたい」というように、ある目標の箱に向かって毎日努力を続け、その結果少しずつ会場が大きくなっていくことで、ファンの方も応援してきた報酬を感じるものである。同様にSNSのフォロワーも人気の指標としてわかりやすい実数である。このような一種の報酬が定期的に、そして少しずつ上に行く形で提供できることが重要となる。
    一方で実数で追えないものとして「パフォーマンスの実力」がある。歌唱力・ダンス能力など、最初できなかったことがどんどんできるようになっていくことはまた同じ成長ストーリーの1つである。ただ、これはわかりやすく可視化できないためにあまりコスパがいいとは言えず、あまり力を入れているアイドルが多くないだけに、業界の底上げにももう少しここを評価する制度・仕組みが必要であると考える。

  • 成長ではない成し遂げたこと
    多くは雑誌掲載や広告であると考える。
    (正直言えば一部のものを除き、多くは金で買える枠だったりするのだが、)やはりヤンマガの表紙・渋谷での広告などは大きな成功の1つとしてカウントされるだろう。

例:ジャニーズ系アイドルについて

ジャニーズ系のアイドルはその点で注目に値するところがある。
その大きなところは「ジャニーズジュニア」として幼少期から育てることにある。先輩グループのバックダンサーとして出演したり、またジュニアだけを取り上げた演劇をしてみたり、いわゆる研究生時代からも顧客との接点を持たせることで、アイドルとしての成長を人間の成長と重ねることで、成長を複数用意したといえる。
この点は地下アイドルやAKBなどに見られる研究生システムと圧倒的な時間幅として大きな違いがあるといえる。(地下アイドルが構築できるエコシステムではないが…)

Palette Paradeのストーリー戦略

PaletteParadeとは2021年9月にデビューした、真っ白なキャンバスの妹分アイドルである。

食前舌語は対バンで数回とワンマンに一回だけ参加しただけのため、正直メンバーの個性やその背景まで理解できていないが、傍から見てそのマーケティング戦略に圧倒された

アイドルの立ち上げ期(ティザー期)に一番重要なことは「認知をとる」ことであるが、この認知もただ存在知られるだけではなく、わくわくさせること、当事者意識として巻き込ませることが重要である。
この「当事者意識」とは、すなわち自分に関係のある情報として興味を抱かせる・行動させることである。
アイドルのファンをしている人であればわかると思われるが、正直どこで新たなアイドルができようとも「よそはよそ、自分には応援しているアイドルがいる」で終わってしまうのである。ただそうではなく「このアイドル応援したい」とフックをかけることができれば、その後のライブへの集客が大きく変わることになる。

今回はその中の代表的な「パレちゃれ」について取り上げる。

パレちゃれとはなにか

「パレちゃれ」とは、PaletteParadeのワンマンライブ(正確にはライブ×イベントに近い)の1つであり、2月までの5か月にわたり、毎月課題にチャレンジし、それを成功させるものである。

上記で示した通り、「ビラ配り」「ポスター張り」「モザイクアート」「リレーマラソン」という各月のチャレンジと「フォロワー5k達成」という、かなり数時間を見ても簡単ではないものが並んでいる。
ここでは、いかにこの施策がマーケティング戦略として素晴らしいのかを解説する。

①達成は少々困難なレベルの課題

まず企画が少々困難であるというちょうどいいレベル設定である。
ビラ配りはコロナ禍で一時期より難しいものだし、無名アイドルのポスターを張るという時点でポスター掲出も難しい。モザイクアートに至っては、写真撮影の段階からの挑戦だった。
これらのちょうどいい難しさは、ファンとアイドルの結束を強くすることができるとともに、ファンの応援の熱量が最大になると考えられる
同時に、経験の少ないアイドルにとって、成功体験を作り、それを自信にしてほしいという運営の意図すら感じる。
また加えて、今のParetteParedeには特に大きな肩書はないが、こういったチャレンジを通じて「あのマラソンを走ったアイドル」として照会ができるだけでなく、

②ファンを巻き込む力

この企画は、圧倒的に今までにあった他グループの朝鮮系企画とは異なり、ファンを巻き込む力が素晴らしいといえる。
下記に各チャレンジでのツイート・配信・ファンとの交流の有無を上げる。

ご覧の通り、もちろんツイートでの宣伝はあるのだが、それと同時にモザイクアートは配信があり、さらにどの企画でもファンとの交流があった

  • ビラ配り
    渋谷や新宿で実際にビラ配りが実施された。特にコロナ禍でのビラ配りは困難を極めたところもあった。しかし、1人1日1枚までという制限があったが、逆に言うと「一人1日1回まではアイドルと(無銭で)交流ができる」ということであり、これはデビューして間もなくライブ本数の少ないアイドルには接触機会を増やす結果となった。

  • モザイクアート
    写真撮影から行ったため、ファンと写真を撮るというイベントから作った。また、実際にモザイクアートを作成しているところは配信されたことで、オンライン・オフラインどちらでもPaletteParadeと交流ができた。

  • リレーマラソン
    まだ未定だが、名古屋から東京までのマラソンであればファンとの交流や配信は絶対あるだろう。

  • フォロワー
    実はこれについても多くのファンがツイッターにて宣伝を行い、フォロワーへのフォローをお願いしている。多くのUGC(ファンが自主的に創出する広告、口コミなど)を創出することに成功している。

最初2つが共通していること

パレちゃれの素晴らしい点として「少々困難レベルの課題」「ファンを巻き込む力」を上げたが、この2つには共通して「ファンがPaletteParadeに対して愛着を持つ」ことができる施策となっている。
そしてこの愛着により、まず前世持ちではない地下アイドルとしては異例といってもいいほどティザー期にファンをしっかり構築することができた。
また、ビラ配りでの写真・モザイクアートの写真・フォローのお願いツイートなどのUGCを創出することで、二次拡散的にParetteParedeを広めることができた。

さらにここで重要なことはこの愛着を持たせる施策を運営が設計し展開できたところである。
先ほど分類した多くのストーリーはアイドルが成長することで初めて作り出せるものであるため、アイドルの結成初期はあまりこのようなストーリーがなかったりするが、その中でこのようにParetteParedeにファンが愛着を持ってほしい最適なタイミングだったといえる。

今後のさらなるファンとの「愛着」作りに期待が持てる。

最後に…

ただいま、ParetteParedeはフォロワー5000人チャレンジを実施中だが、正直2月に入ってしまったのに少し厳しい状況にある。

ただ、かなりメンバーもSNSに力を入れており、今後の動向を見るうえでフォローする価値は必ずあるといえよう。
ぜひフォローしてくれるとありがたい。(回し者になってしまった…)
あと、フォロワーのわりに平均的にいいねの数が多い、アクティブユーザーが多いのもすごい。


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