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#1_7 アイドルとワンマンライブ(白キャン4周年は陰陽織り交ぜた宝塚だった件)

#1系統では「アイドルとは何か」をもとに、アイドルの歴史や存在意義みたいなものを深掘りしつつ、その価値提供、顧客体験の本質を探索していきたい。前回の記事ではアイドルの体験価値を再分化した。

前回は「アイドルと歌」と称し、歌唱力への投資は初期段階で必要不可欠であることを説いた。

今回は「アイドルとワンマンライブ」と称し、前半でワンマンライブに求められることと顧客体験を軸にした商材の分類、後半で真っ白なキャンバス4周年ライブについて語る。

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地下アイドルのライブによるファン層の違い

そもそもアイドルオタクが突然見たこともない地下アイドルのワンマンライブにはいかないものである。
顧客遷移のほとんどといっていいものが、対バンライブ(複数のアイドルが出演するライブ)に参加した中でいいと思ったアイドルを見つけ、回を重ねることでワンマンへ連れ出すことができるのである。
対バンライブはさながら見本市である。

層分け

ここにはワンマンライブがファン層と比べライト層には敷居が高い点が要因としてある。
まずすべての曲がわからないので、有名曲でないものについては待ちぼうけになってしまう。
また、ライト層にとっては別のお目当てのアイドルが見れることもあり、対バンライブはコスパがいいものであり、ワンマンライブの費用が比較的に高く感じられてしまうのである。

ワンマンライブに求められること

上記のことを参考にすると、地下アイドルのワンマンライブに求められることは、「ライト層のファン化」と「ファンの維持」の2点があげられる。

層分け2

まずファン化についてはグループの「コンセプト伝達」が重要となる。
そもそも対バンライブはライブなどに個性を出すことは難しい。というのも、外的要因として大きなセットを用意することができないので、ステージがただ存在しているだけである。
また、ライト層の多いライブにおいて、コンセプト(=個性)ばかりを重視したライブを行っても、客席の盛り上がりには欠けてしまい、最終的にはイベントに呼ばれなくなるというリスクも存在している。

一方でワンマンライブについてはセット・公演時間ともに豊富であり、ただのワンマンライブの延長ではなく、アイドルグループのコンセプト・個性を伝達することができる場所なのである。
コンセプト(=ブランドアイデンティティ)を表現することはそのアイドルグループへの愛着を育てやすいものとなり、これは#1_3『アイドルと顔』でも紹介している「好きな理由と好きであり続ける理由の違い」の後者にも通じる。
ここで重要になることは「コンセプトの明確化」と「わかりやすい伝達」である。
一般的に多くのアイドルグループがコンセプトを持つ中で、それがわかりにくいことが多くある。(これは#3_1『USPとアイドル』でも記載している。)
そのため、ワンマンライブではライト層にも理解できるくらいコンセプトを明確化(もしくは明文化)してあげてるとともに、それをわかりやすくステージ上で表現することも重要である。

※セットリストなどについては後日別の記事で記載予定。

フロントエンド商品とバックエンド商品

対バンライブとワンマンライブをマーケティング理論で分類すると、これは「フロントエンド商品」と「バックエンド商品」に分類される

三商品

フロントエンド商品はお試し体験・特価などを作ることで、新規顧客に体験を求めるものである。
地下アイドルでは対バンライブなどを通じて、(対バン参加にはお金がかかるが、ほかのアイドル目当てでお金を払っており、顧客の体感としてほかのアイドルは無料に感じているため)無料のライブで新規の認知・体験を獲得しているといえる。

一方で、バックエンド商品は利益の確保・利益の最大化を目的とするが、特に地下アイドルのようなファンマーケティングがLTV(顧客生涯価値)を最大化するために、いかにファン層を育てるか、いかにファンを維持できるかが重要になる。
(この分類にはもう一つ「コンセプト商材」として、存在するだけでブランド価値を高める商材もある。例えば時計屋さんの2000万円の腕時計は、正直売れることはないだろうが、それほどの商材すら扱っているところに信頼を勝ち取れる。)

真っ白なキャンバスが魅せたコンセプトライブ

2021年11月20日、真っ白なキャンバスが4周年ライブとしてコンセプトライブを実施した。
食前舌語も時々白キャンさんのライブには参加させていただいているが、今回もその延長線上で参加した。

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感想としては圧倒的なライブパフォーマンスの前に感動をした。
これには以下の理由があげられる。
①対バンとワンマンの違いの創出
②ワンマンライブの構成
③メッセージ性の創出
④チケット種類を多数用意

①対バンとワンマンの違い

まず真っ白なキャンバスの現状は少し停滞気味であったといっても過言ではない。
というのも、やはり真っ白なキャンバスといえば「MIXのデパート」とも称されるほど声出し・振りコピが激しいアイドルの1つであり、コロナ禍は大きな逆風となった。

一方で、多様なクリエイターとのコラボアルバム、5日連続ライブ(毎日ユニット・バンドなどで演出を変更)をコロナ禍で実施したものの、残念ながら今はやりのアイドルと比較するとその勢いが小さかったと言わざるを得な
かった。
加えて新メンバーオーディションの結果として旧1期メンバーの再加入には賛否が上がる。全国ツアーなどを通じ5人体制でかなり完成されていた状況からの 、7人体制での実力の低下が叫ばれていた。

その中で直近の対バンライブは一時期セットリストによく登場していたコラボアルバム曲が減ってきており、逆にSHOUTやPRAT-TIME-DREAMERなど過去盛り上がりを醸成していた曲を中心としたセットリストを展開するとともに、夏曲も今までと一転し夏曲らしいとにかく盛り上がる曲となっていた。

この中で、対バンはコンセプトライブとなったが、この時期までの対バンライブと打って変わって個性を最大限に発揮する内容となった。
具体的な内容はのちに記載するとして、このようにコンセプトライブはこのライブ時間以外の場外乱闘から始まっていた。

②ワンマンライブの構成

まずこのワンマンライブは大きく分けて2つ存在している。

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一部は演劇を取り入れ、不安と闘うメンバーを創り出した。
一方で二部は一転、多幸感の強いセットリストとして展開されている。
この二部構成は一部にお芝居、二部にショーを展開している宝塚に近いものがある。
この4周年もまったく同様に、一部と二部での演出の対比が見られた。
特に一部でのお芝居がもたらす違和感、不安に対し、二部の王道アイドルソングの連続はある一種の安心感も抱かせ、より一層多幸感を創出しているといえる。

また、この一部は「不安や劣等感などの負の感情を具現化した存在」として登場するヒールに打ち勝つ真っ白なキャンバスを演出した。
ここで重要なのはステージ上でメンバーが休憩する時間は全くなく、一つの連続体として一部が完結しているところである。
特に7人を3人・4人のユニットに分けることでステージは進行し続ける中でのメンバーの休憩時間を創り出し、決して対バンでは創り出せない世界観を一連のものとして創り出している。

加えて、映画『映画大好きポンポさん』が劇中述べる90分程度しか「人は集中できない」という言葉通り、ワンマンライブの2時間は途中で集中力を欠ける可能性が高く、途中で映像を差し込むなどの演出が必要になる。
一方で、今回のライブは一部(1時間)と二部(40分)という形で明確に分けられることでコンテンツの分離に成功し、この集中力を継続させることができた点も注目に値する

③メッセージ性の創出

真っ白なキャンバスがほかのアイドルと異なるところとして「メッセージ性」を上げる人は多いが、今回はそれを明快な形で、届けることができている。
特に「不安や劣等感などの負の感情を具現化した存在」として登場したヒールは、真っ白なキャンバスがいつも提供している「日常ある不安・劣等感に対して、等身大の存在のアイドルが闘う姿」とまったく同じものであり、白キャンというブランドの核を的確に表現できていた。

ここで重要なのが不安と安心に象徴される陰陽の上手な使い方である。
メンバーの衣装が白黒を基調となっているのも今回そのテーマに合わせていると考えられるが、一番注目すべきはセットリストである。

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これは先ほどのセットリストを陰(青)と陽(赤)に分けてみた。
このセットリストから見てもわかる通り一部後半から陰の曲が増え、これはお芝居のストーリーとも合致している。
一方二部では陽の曲を中心として、多幸感の醸成となっている。
(一部最初は格好いい曲が多く、観客の心をつかむ仕掛けだろうか?)
このように、セットリストの中で曲を分類し、それを上手に組み合わせられているといえる

また、演出面でもライトで多くの場面で陰陽が表現されていた。
特にメンバーが向き合うシーンでは、身体の右半分と左半分を見せているメンバーがいるため、客席からも陰陽が綺麗に出ている。

④チケット種類を多数用意

今回のライブチケットは以下の4種類で販売された。

Sチケット:前方優先・熱狂ファン層が多い
一般チケット:一般・ファン層中心
ペアチケット:一般2枚より格安でファン層の紹介を期待か
2階後方チケット:1500円と圧倒的格安でライト層を期待か

このように、ワンマンライブの障壁だった金銭面のハードルをチケットの展開で克服しようとした点も面白い点だと考えられる。

まとめ

今回はワンマンライブを取り上げ、対バンとの差別化、ファン層醸成と維持、コンセプトの明快な伝達を上げた。
その中で今回の真っ白なキャンバスのライブは満点に近いものだったといえる。
鈴木の歌唱力、ダンスの統一感、小野寺の演技力などまだまだ課題感の多いものではあったが、これからの進化が非常に楽しみになるものだったといえる。

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