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ソフトウェアの資産化について⑥

前回前々回は、税務上の処理を推測する方法を説明しました。(繰り返しになるようですが、税務上の処理は開示資料からだけでは全て把握できる訳ではないので、あくまで推測できるだけです)

繰延税金資産の内訳からソフトウェア資産を推測する方式ですが、実はひとつ注意点があります。カカクコムでは、「ソフトウェア」の記載がありましたが、必ずしも全ての会社が「ソフトウェア」という項目として記載している訳ではない点です。

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第3回で取り上げたぐるなびクックパッドについては、「ソフトウェア」という項目ではなくて、「減価償却超過額」「減価償却費」という項目があります。減価償却費の違いは言い換えれば資産計上金額の違いなので、ほぼ同じ内容ではあるのですが、ひとつ念頭に置いてください。

「減価償却」だと、ソフトウェア分以外にも、有形固定資産やその他の無形固定資産も混ざっている可能性もあります。もちろん、最近のIT企業はあまり有形固定資産は持っていないことが多いので、内訳としては、ソフトウェアの減価償却費がほとんどかと思います。そのため、このシリーズの記載内容では、減価償却費の項目をソフトウェア資産の差額とみなすことで話を進めます。

以上の前提の上で、第3回でリストに表した企業を税務上の資産の比率に置き換えたの下の表となります。(ちょっと図が小さくなったので見づらいですが)

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【前提条件】
1.税効果注記の数値は、減価償却などは全額ソフトウェアとみなしている
2.法定実効税率は個々の会社によって異なるが、税率30%とみなしている

第3回の時に表示した会計上の「ソフトウェア/総資産」順で並べているが、今回は税務上のソフトウェア資産項目などを追加し、いちばん右の列に「(税務上の)ソフトウェア/総資産」を表示しています。

こうしてみると、会計上は資産計上していない場合でも、税務上は資産計上している会社もそれなりにあるようです。そして、数値が大きく動いている会社が2社ありますね。ミクシィマネーフォワードです。


まず、ミクシィからみて見ましょうか。

会計上の「ソフトウェア/総資産」比率がほぼ0なのに対して、税務上は14.8%となっています。

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これは、繰延税金資産として、89億も資産計上しているのが理由です。

これまで説明したきたように、繰延税金資産の金額を税率で割り戻すと、元の資産計上の差額が算出できます。

8,903百万円÷30%=29,676.7百万円となり、会計上の残高61百万円を合算して、税務上のソフトウェア資産計上額は、約300億円あることになります。

ミクシィと言えば最近ではモンスターストライクが爆発的な売れ行きを示していて、アプリ売り上げランキングでもトップがレギュラーポジションといっても良い状況です。

おそらく、税務上のソフトウェア資産計上対象としているのは、モンスターストライクの制作に関わる費用ではないかと考えられます。

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ミクシィの直近2期の利益率は48%,45%とありえないくらいの高利益率です。前にも述べたように、会計上の資産計上基準である将来の収益獲得が確実にある(自社利用ソフトウェアとした場合)ですが、この実績から考えば、文句なしに収益獲得ありと言えそうな気もします。

しかし、スマートフォンゲームという非常に流行り廃りの激しいものであるだけに、いつ売上が激減してもおかしくないという考え方もあります。そうすると、将来の収益獲得が確実と言い切って良いかは断言できません。

そういった意味合いで、会計上はソフトウェア資産に資産計上しない方針としたのかもしれません。

一方で、税務上では300億近い資産計上していますが、税務上は将来の収益獲得が不明な場合にも資産計上しますので、過去実績からして収益性がないとするのは困難と言えるため、資産計上しているのではないでしょうか。

mixi engineer blogに出てくるエンジニアの人件費などは、会計上は資産計上されていないけれども、税務上は資産計上されているのかもしれません。

ちなみに、会計上も資産計上していたとした場合、耐用年数にもよりますが、2−3年と想定して、100億から150億程度資産残高があるのではないでしょうか。逆にいうと、費用がその分減少するので、営業利益がもう100億程度は大きくなります。そうすると、営業利益率で5割を超すレベルにまでなっていたことになります。


次に、マネーフォワードをみてみましょうか。8月に上場承認され、9月に上場する予定です。

マネーフォワードは、ソフトウェア資産比率が会計→税務が、0.1%→25.1%となっています。

会計上の資産計上は4百万円ほどですが、税務上は約10億円ほどあると推定されてます。同社の直近の業績は、このような状況です。

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直前2期は赤字であり、進行期も2Q累計までは赤字となっております。

現状のマネーフォワードのサービスは利益を出せるまでに至っていないため、将来の収益獲得があるとは言えないため、資産計上していないのでしょう。おそらく、会社側が資産計上したいといってもよほどのことがない限り監査法人としても認めないでしょう。

一方で、税務上は資産計上しているということは、今はまだ赤字だけれども、将来にはきっと収益獲得できるようになる、という想定で資産計上しているのではないでしょうか。(そもそも、収益獲得の見込みが全くないサービスを作ろうとはしないとは思いますが)

このように、会社によっては会計と税務での取り扱いの差から、資産計上金額が大きく異なるケースもあります。


次回は、おそらく最後となる予定ですが、個別の会社について、また別の角度からみてみたいと思います。


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