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一緒に花を咲かせよう。~「大学受験で失敗した」と思っているあなたへ~

国際日本学部 国際文化交流学科 
准教授 平山 昇(日本近代史、観光史)

私は今年(2020年)4月に神奈川大学に着任しました。
新型コロナウイルスの影響によりキャンパスの教室で授業ができないなかでのスタートとなりましたが、だからこそ、学生たちが精神的に孤立しないようにするために、「教員⇔学生」「学生⇔学生」のコミュニケイションがしやすくなるような授業運営を心がけてきました。

その一つとして、「リアクション・ペイパーのコメントを全員分、匿名で紹介する」ということをおこなっています。
毎回の授業後に学生たちにリアクション・ペイパーを書いてもらうのですが、そのコメントを次の回の配布資料に全員分(!)掲載するのです。
ただし、実名ではなく「匿名ペンネーム制」で。
こうすると他の学生たちの目を気にせずにのびのびと書いてくれるので、興味深く新鮮なコメントが続出するようになります。

そして、このリアクション・ペイパーでは、「授業に関係なくてもいいので何でもどうぞ」という雑談コーナーも設けています。
コロナでのせいで例年通りのキャンパス生活を送れない学生たちが、クラスの学生たちと「匿名での紙上雑談」をすることで、ちょっとした息抜きにでもなれば…という願いをこめて作りました。
誰かが書いたコメントに対して別の学生が反応して…という一週間おきの「文通」のような形で、趣味やら話題の映画(鬼滅の刃!)やら、色んな話題で盛り上がっています(笑)


さて、つい先日のことですが、担当講義を受講しているある学生(Xさん)が、この雑談コーナーに辛かった浪人生活をふりかえる長文の文章を書いてくれました。
浪人したものの第一志望校に合格できず、モヤモヤした気持ちをかかえたまま神大に入学したけど、そこからは気持ちを切り替えてこの大学での学びを満喫するようになり、今では神大でよかったと心から思っている…という内容でした。

これを読んで心を動かされた私は、次の回の授業でこの文章を学生のみんなに紹介しました。
そのときに私が語った内容を以下に記します。
神大にかぎらず、「大学受験での失敗を心の中でひきずったまま大学に通っている…」というすべての大学生の皆さんへ、心をこめてこのメッセージを送ります。

成功体験だけじゃない。
失敗の後に得ためぐりあいの喜び

みなさんのなかで「この大学は第一志望じゃなかった。本当は他の大学に行きたかったんだけど、受験で失敗して…」という人はいますか?
もしあてはまる人がいたら、ぜひ配布資料に掲載されたXさんのコメント〈※ここでは割愛〉を読んでみてください。

浪人で大失敗をした経験から「辛かった受験生活をリアクション・ペイパーにぶつけて」書いた内容です。
Xさんの文章がすごいのは、その失敗談を詳しく語っているのに、不思議なまでにポジティブな雰囲気を醸し出していることです。

こういうふうに自分の過去の失敗をポジティブに語りながら前を向いて歩んでいける人は、必ず「ころんでも起き上がれる強さ」と「失敗した人への共感」の両方を兼ね備えた深みのある人間になります。
そういう人は、これからの人生で何があったとしても、必ずなんとかやっていけます。

これは、私の43年間の人生経験すべてを賭けて断言します。

考えてみれば、成功体験だけの人生なんていう人は世の中にまずいません。
いま講義でテーマにしている甲子園野球も、優勝して「日本一」になる1チーム以外はすべて「敗者」になります。
高校球児たちはほとんど全員が、最後の最後で「敗者」になった経験をするわけです。でも、彼らにとって、むしろそれこそがかけがえのない人生の財産になっていきます。

かく言う私も、大学受験では東京大学に現役合格という「成功」を手に入れましたが、その後の人生では「失敗」と「敗北」を数えきれないほど経験してきました。

今でこそ神大の准教授として安定した待遇を得ていますが、大学の専任教員(一般企業の正社員待遇に相当)になるのはたいへんな「狭き門」です。
大学院でがんばって博士号を取得しましたが、それでも大学教員のポストをゲットするのは至難の業!!

全国各地の大学の教員公募に応募するという「就活」をしましたが、何十もの大学に落とされ続けて(泣)、ようやく2013年に前任校(福岡市内の私大)に採用されました。
だから私も、自宅に届いた封筒を開くたびに「お祈りメール」を目にして泣きたいほど悔しがったことが何度もあります。

「私こそが適任ですよ!!」

と全身全霊をこめて応募書類を書いたのに採用されず、悔しさのあまり号泣したことも一度や二度ならず...。
でも…だからこそ…今こうやって皆さんと一緒に授業をできるのが、嬉しくて、楽しくて、やりがいがあってたまらないんです!!
あのときの苦労はすべて、神大の学生たちと出会うためだったんだ…と心の底から思えるのです。

もし、大学院を修了してすんなりと神大の専任教員として就職していたら、こんな喜びは決して味わえなかったと思います。

私はXさんの文章への返信で、次のように書きました。

「卒業式の日に『この大学にめぐりあえてよかった』と心の底から思えたら、その瞬間こそが、本当の意味で大学受験が終わるときです」

これは、大学受験の結果に忸怩たる思いを抱えたまま神大に入った人たちみんなに届けたいメッセージです。


この神大で、一緒に花を咲かせましょう。
ここでしか、あなたにしか咲かせることのできない、とっておきの花を。

でも、花はいきなり咲くことはありませんよね。
まずは、この講義の期末レポートを頑張ることで、一粒の種をまいてみませんか? 

期末レポートの締切まであと1カ月を切りました。
どんな力作が飛び出てくるか、楽しみにしています!

…さて、そろそろ今日の授業内容に入りましょう。
前回に引き続き「甲子園野球の歴史」について考えていきます。今回もめちゃくちゃ面白いですよ!!

02桜