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すべての道はローマに通ず。ローマとZOOMでつながる特別講義!

国際日本学部 国際文化交流学科 観光文化コース
教授 島川 崇(観光学)

まずは世界をまたぐため、7時間の時差調整から

2020年に新設された国際日本学部国際文化交流学科には、新たに観光文化コースが設置され、観光学部・学科と同等以上の観光教育が行われています。今年の前期は全て遠隔授業で行われることとなったのですが、私の担当する「人文観光資源論」では、遠隔授業だからこそできる強みを生かして、学生が楽しみながら学べる授業内容を考えました。

旅行先として根強い人気を誇るイタリアも、今回のコロナウイルスの影響を大きく受けてしまった国の一つですが、遠隔授業のメリットを生かして、現地ローマに駐在している旅行会社の方に生でお話を伺う機会を作りました。

普段、人文観光資源論は1限で9:00からなのですが、イタリアとの時差は7時間!ということは、現地では2:00になってしまいますので、今回は特別に17:15に時間をずらして実施しました。

表に出ない立役者「ツアーオペレーター」とは

最初に、旅行業界を理解するため、旅行業界特有の複雑な流通構造の説明をしておきました。

皆さんになじみの深いJTBやHISといった街にある旅行会社は、航空座席、ホテル、レストラン、バスや鉄道等の運送手段等の現地手配をすべて対応しているわけではないのです。ご存じでしたか?

旅行先の特定の地域・目的地に根差して、これらの現地手配を専門に行っているのは、ツアーオペレーター(ランドオペレーター)という存在です。

ツアーオペレーターは、一般消費者である旅行者にはその姿が見えないけれど、旅行業界の流通の大きな柱として存在しています。国内外の旅行会社からの依頼を受け、ホテルやその他の旅行関連サービスの手配、取次等を行う事業を手掛けています。特に海外のホテルやレストラン、コンサートや美術館・博物館の手配等には大きな役割を果たしており、現地の新しい情報や現地の対応で、なくてはならない存在です。

もう一つ、旅行者には見えないで、一般に馴染みがないけれど、旅行業の流通においてなくてはならない大きな役割を果たしている立役者が、ホールセラーと呼ばれるものです。その名の通り、旅行業の卸業のようなものです。

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ホールセラーは、航空、ホテルと直接契約したり、ツアーオペレーターを介したりしてホテルや現地手配を行っていて、パーツをばら売りする場合もあるけれど、すべてをまとめて「ユニット」と呼ばれる半製品を組み上げます。それに、旅行会社が自社ブランドを付けて、パッケージ商品に仕立て上げることもあります。

ホールセラーは一般的にツアーオペレーターを活用しますが、総合旅行会社もOTA(Online Travel Agency; ネット専業でホテルの予約等を中心に事業を展開する新しい形態の旅行会社)も、ツアーオペレーターを使う場合が多いです。総合旅行会社で現地に支店がある場合は、現地支店がツアーオペレーターの役割を果たしている場合もあります

ランドオペレーター(ツアーオペレーター)の存在

現地の「立役者」から話をうかがう

イタリアの最新情報を知るためには、やはり現地に根ざしたツアーオペレーターの方のお話を聞いた方がいいので、今回は、ツアーオペレーター界では規模も歴史もナンバーワンであるミキ・ツーリストさんにお願いしました。

ミキ・ツーリストさんは老舗であるにも関わらず、新たな取り組みを果敢にチャレンジする風土がある会社です。旅行業のウラ側を知った上でお話を聞くと、理解が深まります。

今回は、ローマ支店の山本さんにお話しいただきました。

イタリアの国家経済は日本よりもはるかに観光に依存していますから、すでに7月から順次観光客を受け入れていく方針が出されています。日本よりも多く感染者を出していることもあるのでしょう、街中の対策や観光地、観光バスの安全対策は日本よりも徹底されていることなどが紹介されました。

その上で、旅行業で働くことの魅力について、大いに語ってもらいました。学生たちは、ツアーオペレーターのように、お客様に見えないところで活躍している「立役者」の存在を初めて知り、関心を持ったようでした。

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山本さんの説明画面

本当に価値のある旅を提供する人材を育てたい

また、このミキ・ツーリストに今年入社したばかりの土井さんも登場してくれました。土井さんは大学では美術史を専攻し、学芸員の資格も持っているそうですが、その美術の知識を生かして旅行商品の造成がしたいとの思いから、ミキ・ツーリストに入社したそうです。

まさに、今、この「人文観光資源論」では、イタリア・ルネサンスの美術を学んでいます。

美術の背景や本質・そのすばらしさをちゃんと理解した旅行会社の社員を輩出できれば、空しい価格競争に巻き込まれることなく、本当に価値のある旅を提供できると私は信じています。

旅行業界でも、心ある人々は私のこの構想に共鳴してくれています。あと3年半後、この神大の人文学を基調とした新しい観光学を学び、人間の本質を追究した学生が、クオリティの高い旅を提供する旅行会社にどんどん就職して行って欲しいなと願うばかりです。

学生の感想から

私は正直ツアーオペレーターの仕事についてはほとんど知りませんでした。今まで旅行にはガイドは付けず、観光地を回っていました。
ですが、その建造物や景観に対して現地の人だからこそ知っている知識というものを、分かりやすく解説をしてくれるのがガイドさんなのだということと、その必要性や有難さを改めて感じました。
また、現地に行くための手配から現地のリアルな情報の提供など、私たちの安全まで保障してくれるミキツーリストさんのような方々がいるからこそ私たちの観光というものは成り立っているのだと改めて実感しました。お客様一人一人のニーズを叶えることの出来るこの仕事に尊敬し憧れました。
現代では、絵画等の美術品はネットで簡単に見れてしまいますが、土井さんがおっしゃっていたように、サイズ感にピンとこないと、本当の感動にはつながらないという話や、歴史に触れながら、ありのままのものを見て感動して、初めてその作品の良さが分かると改めて共感しました。

すでに出来上がった既存の旅行プランがあって、それを単純に提供するだけの旅行会社ではなく、自分で企画を行うツアーオペレーターだからこそ得ることができる働くことの喜びを、画面を通して直接聞くことができ、とても印象に残りました。
自分で企画したプランをお客様から高評価されたときの達成感を想うと、さぞや嬉しいだろうなと思いました。
また、日本との比較で、イタリアのコロナ対策は徹底しているなと感じました。QRコードを使ってメニューを見ることが出来る点は良い案だと思いました。
現地に行かないとわからない絵のサイズについて、私はいつも教科書でしか絵を見ないのでコロナが収まってきたら実際に直接絵を見に行ってみようと思いました。
イタリアが世界遺産登録数で世界一位であることは初めて知った。私は世界遺産に興味があるので、イタリアへの興味も一層強くなった。今まで世界史で学んだことと照らし合わせることもできそうなので、観光がとても楽しそうだと思った。
ツアーオペレーターという職業について、今までほとんど知らなかったが、実際にツアーオペレーターの方のお話を聞くことでより深く知ることができたと思う。
業務内容について聞き、ツアーオペレーターはなくてはならない存在なんだと感じた。直接お客様との繋がりはないのかもしれないが、それでも、より良い旅行になるよう重要な役割を果たしていることが分かった。働くことの喜びを実際にご本人の口から聞くことで、ツアーオペレーターという仕事についての興味が持てた。今日の授業では、今まで知らなかったことをたくさん知ることができ、とても良い機会だった。ツアーオペレーターの良さをたくさん感じることができた。

学生たちは、ローマと横浜を繋ぐ学びから、様々な発見をしたようです。

次は美術ガイドの体験を準備中。旅の豊かさを感じてもらいます。

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写真はローマ観光のハイライト、バチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタ。実際に見たら鳥肌ものです!

来週からは、講義とは別に、ミキ・ツーリストさんが契約しているガイドさんによるイタリアの美術ガイドを実際に聞きます。
旅行者にいかに関心を持ってもらえるか、徹底的に考え抜かれたガイドさんの分かりやすい解説を聞くことで、ガイドさんがついた旅の豊かさについて、学生に実感してもらおうと思っています。