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試行錯誤のオンライン授業―新任教授の体験談―

人間科学部人間科学科 特任教授
松本 桂樹(臨床心理士/公認心理師/1級キャリアコンサルティング技能士)

「この俺が教授!?」期待と不安でドキドキの日々。

2020年4月、私は神奈川大学人間科学部の特任教授に就任しました。

実感がないのですが、多分ちゃんと就任しているはずです。オンライン講義もやってるし、先日はオンライン教授会にも参加しました。でも、いまだ学生にも他の先生方にも直接お会いしていません…。

大学で採用が決まったとき、「この俺が教授!?」 その事実にびっくりしつつも、学生を前に颯爽と講義を行う自分の姿を想像してニンマリしていました。

私は、今も企業を中心にカウンセリングを行っている実務家です。非常勤では複数の大学で教えていましたが、教授になるのは初めてで、期待と不安でドキドキでした。

大学での私のミッションは、公認心理師の養成です。講義開始に先立って、自分なりに準備を進めていました。設定した教科書を読み込み、パワーポイントで資料を作り、学生に取り組んでもらう課題を明確にし、グループワークの進め方をデザインしたりしていました。

突然の大学内入構禁止。オンライン講義って何!?

4月に入って、その後のことはご存知の通りです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言が発令されるとともに、大学への入構禁止が決定されました。多くの他大学と同様、すべての講義がオンラインとなりました。

「えー!神奈川大学のことよく知らないし、特任教授って何するのか分かってないし、公認心理師カリキュラムは今年開講だし、しかもオンライン講義って何?これまで準備した資料、使えないじゃん!オンラインでディスカッションって、どうやるの?」とアワアワしていました。

いつまでも困惑してはいられません。原点に返って考え直しました。

自分のミッションは学生を、立派な公認心理師に育て上げることです。

そこで、学生に想いを巡らせてみました。期待に胸を膨らませていた大学生活、得体のしれないウイルスの恐怖、講義がオンライン化することの不安。
学生の状況や気持ちは、私自身とも重なる部分が大きいと気づき、逆に自分の感覚を大事にしようと思い至りました。

幸い大学の対応が素早く、早々に教職員用の「神奈川大学 遠隔授業サポートサイト」が立ち上がり、オンライン講義のあり方を示してくれました。

遠隔授業のマニュアルには、授業の組み立て方が丁寧に解説されていて、主に以下の二つが柱になりそうだと分かってきました。

① Web会議アプリのZoomを使ったオンタイム型授業
② 大学のラーニングシステムdotCampusを使ったオンデマンド型授業

①は、学生との対面授業が実現できます。ただしライブ動画配信のため、通信環境によっては視聴しづらい可能性があり、かつかなりの通信量を消費します。一方、②は講義資料をdotCampus にアップし、課題やりとりを中心に授業を行います。

ただ、長い動画をアップするとサーバーに負荷がかかり、やはりここでもかなりの通信量を消費してしまいます。

どうしたものか悩みました。学生の顔を見たいのはやまやまです。でも講義の時間、ずっと狭い画面に拘束してしまうことの健康影響も気になります。
結局、オンタイム型は避け、ある程度自由な時間にYouTubeを通して授業動画を見てもらうスタイルに決めました。加えて、講義時間の間はTeamsのチャットで質問対応を行うことにしました。

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YouTubeを使用したオンデマンド型授業

授業は好評。嬉しくてついニマニマ

これまで、既に十数本の動画をYouTubeにアップしています。動画では、自分の実務経験を踏まえたコメントを行うように意識しており、それが結構好評のようで、学生の感想に「動画が面白かった」「YouTubeは繰り返し見られるから助かる」といったコメントを見つけると、嬉しくてニマニマしています。

講義時間の間はPCの前で待機して、学生からの質問にチャットで対応していますが、複数の学生から同時に質問が来ると、チャットが複数並行して進むのでちょっと大変です。
文字での回答は、文章が明確でないと正しく伝わりません。難易度が高いですが、学生にしてみたら後からじっくりと読み返せるのもよいようです。

学生にとってのオンライン講義の負荷は、私の講義だけでなく、受講する全講義のバランスも影響します。例えば、他の講義がすべてオンタイム型であれば、オンデマンド型に対して「好きな時間に取り組めて有り難い」と感じるでしょう。しかし、逆にオンデマンド型ばかりだと「課題が多すぎて大変!」となってしまいます。

そこで学生の負荷状況は、たびたびdotCampusのアンケート機能で確認しています。

課題に追われて大変な状況が確認できたときは、講義時間を短縮したり、レポートの文字数を減らしたりして調整を試みています。学生の感じ方はそれぞれなので、日々試行錯誤の連続です。

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オンライン講義の経験は、実は非常に貴重な財産になる

ただ、このオンライン講義の経験は、提供側も受講側も非常に貴重な財産になるのではと思っています。

気づいたらZoomで自然に会話できるようになっている自分。知らずに文章が上手になっている自分。これらは、アフターコロナに到来する「ニューノーマル」を生き抜くための大事なスキルに繋がっていくものと確信しています。