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神奈川大学地域言語教育部会FD講演会が開催されました【2023年2月17日(金)】

 共通教養の組織改編やコロナの感染状況もあり、ようやく今回、地域言語教育部会として初めてとなるFD講演会を、ハイフレックス形式で開催することができました。
 「ポストコロナ期の第二外国語教育について-コロナ期の「試行錯誤」をどのように生かしていくか」というテーマのもと、フランス語・ドイツ語・中国語教育に携わる3名の先生方に発表をいただき、それを受けて後半ではパネルディスカッションを行いました。ここではその内容についてレポートしたいと思います。

 冒頭、地域言語部会長である廣田律子先生から挨拶をいただき、それを受けて司会進行を担当する熊谷から趣旨説明を行いました。
 大学ではこれまでzoomや動画配信、さらにはハイフレックス授業等、さまざまな工夫を行ってコロナ状況に対応をしてきたが、2023年度は元の対面授業への単なる復帰ではなく、オンライン授業のノウハウの蓄積を生かした上での移行が求められる。語学の授業においては、例えばコロナ期に作成した音声・動画教材による反転授業や、課題の管理やフィードバックの簡便化など、教員と学生とのコミュニケーション、学生どうしのコミュニケーションの強化も可能となったのではないか。今は、コロナ状況を経なければ見いだせなかった見地を共有する時期であるとともに、第二外国語教育を通じて学生たちが得られるものとは何か、言語の違いを超えて考えたいという問題設定が示されました。


縣 由衣子 先生(慶應義塾大学)

 縣由衣子先生の発表「ポストコロナの第二外国語教育-フランス語反転授業の実践から」では、慶應義塾大学で実践されている反転授業の例がまず紹介されました。ルーブリックを学生に意識させるために、教員設定のルーブリックを修正・加筆させたり、文法問題を作成させてそれを他の学生の前で解説させるなど、学生の学ぶ主体性を尊重し強化するような工夫が印象的でした。
 また、縣先生が共著者である『外国語教育を変えるために』(三修社)もご紹介いただき、新しい学習指導要領のもとでの教育を受けてきた生徒を、どのように大学で迎えるべきか、そして1~2年しかない大学の第二外国語授業で、学生は何を学ぶべきなのか、という本講演会全体に通じる課題が提示されました。


山田 香織 先生(東洋大学)

 山田香織先生の発表「ドイツ語教育の現場から」では、勤務されている東洋大学でのコロナに対応する授業の展開が報告された後、日本独文学会によるドイツ語教育の実態調査における、授業に対する期待と実情のギャップが指摘されました。すなわち、教員についてはドイツ語教育において重要だと思う学習内容として、社会・文化に関する知識、日常的な会話、文法についての知識という順に高いものの、実際のクラスで重点を置いていることは後者2点であるということです。また、学生が考えるドイツ語学習の意義は、教養を高め人間的視野を広げる、異文化理解といった面が上位に来るということでした。
 また、ドイツの大学の日本語授業をオンライン参観するという体験が、ドイツ語学習者にインパクトを与えたという例が紹介され、「日常」や文化の「発信」といった地域言語教育の今後の展開を占うものが示唆されたように思いました。


烏力 吉瑪 先生(神奈川大学)

 最後の烏力吉瑪(ウリジマ)先生の発表「遠隔授業を事例に」では、教員が学生に答えを与えるティーチングではなく、学生に問いかけて答えを探させるコーチングの実践例が紹介されました。このような信頼関係の構築はオンラインでは一見難しく思われるが、音声教材のアーカイブ化やTeamsによる課題の個別フィードバック、社会や流行などの情報共有を通じて、むしろ可能になった面が多くなったことも指摘されました。
 また、第二外国語授業+αという観点から、言語についての知識だけでなく、学生が社会で生きていくための情報の共有や交流を続けることができる空間こそ大学である、という点を強調していました。


パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、3人の発表に関する質疑応答を行った後、まず会場から、英語教育と地域言語教育はどのような関係を取り結ぶべきかについて質問があり、多様な言語を学ぶ意義や、実際上、非英語圏への留学でも英語で学べるプログラムが多く存在することなど、両者を学ぶことが求められる状況になっていることが指摘されました。また「教養」や「文法」という旧来の枠組みの組み換えが必要でありながら、学生には相変わらず教養や検定試験というニーズがあるように、地域言語教育で考えるべき、これからの「教養」とは何かについても議論されました。

 今回、ポストコロナ期の第二外国語教育という、2023年度に差し迫った問題を考える場として講演会を企画しましたが、地域言語教育さらには英語も含む語学教育がもつ意味や、狭義の語学教育に付け加えるべき「プラスアルファ」を検討できたのは、有意義なことでした。来年度以降もまた、新たなテーマのもとで、学生と教員が共に作り出していけるような大学教育について議論していきたいと思います。

国際日本学部 熊谷 謙介


みなとみらいキャンパス9FにあるLanguage Learning Communs