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実際のところ、東進ハイスクールってどうなの?


筆者は高校二年生の8月から東進ハイスクールに通った。本稿では、東進で実際に学習したコンテンツについて、私自身の感想を交えつつ、東進が提供するコンテンツの実際の感想を知りたい人に向けて書いていく。筆者は東進のコンテンツに満足している部分もあるが、パンフレットや事前説明で明かされなかったために損をしたと感じる部分も少なくないからだ。そうした動機で書いているため、ネガティブな記述が多くなるだろうことを、予め断っておく。また、以下に記すのは筆者が所属した校舎・年度における体験であって、全ての東進生に普遍的に共通するものとは限らない。

1.筆者について

まず、筆者の受験生としてのプロフィールを明かす。筆者は2019年8月(高校二年生)から2021年2月(高校三年生)まで首都圏の東進ハイスクールに通い、私立文系を受験した。以下、受験校と結果だ。

・早稲田大学 文学部 ×
・早稲田大学 文化構想学部 ×
・上智大学 文学部 ○
・明治大学 文学部 ○
・共通テスト 英語181点 国語184点 日本史91点

さて、筆者が東進で学習したコンテンツは以下の通りだ。それぞれの内容は独立しているので、全てを順番に読まずとも構わない。

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2.講座の受講/3.高速基礎マスター/4.東進主催の模試/5.過去問演習講座/6.志望校単元ジャンル別演習/7.第一志望校対策演習講座

2.講座の受講

入学前・長期休暇前といったタイミングで三者面談が行われ、そこで購入した講座をその先数か月受講していく。三者面談では、直近の模試の成績を参照しつつたくさんの講座を提案される。

落ち着いて、自分に本当に必要かどうか見極めよう。そのために、講座を購入する前にテキストを見せてもらうことをお勧めする。時間が許せば、一コマ目の体験受講も良いだろう。その際、内容を読んで自分にふさわしいかチェックするのに加えて、その講座が収録された年を確認しよう

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↑ 東進のテキストには全て XXXX(XX) と数字が振られており、()内の数字が西暦年の下2ケタを表す。写真の例でいうと「早大古文」は2011年で、「漢文読解」は2006年ということだ。

あんまり古い講座の受講は慎重に検討してほしい。最新の大学入試のトレンドに沿っていない可能性があるからだ。また、古いものは画質・音質が悪く集中する妨げになり得る。筆者が受講した講座を思い返すと、2011年度以降と2008年度以前の間に明らかな違いがあった。

*確かに、「撮り直す必要がないほど優れた講義なのだ」という意見も一理ある。しかし、筆者の経験では、大学別の傾向を教授する講座が古いものだと、内容にいちいち疑念が生じた。2011年度に収録された講座で「早稲田の古文では論述の出題は原則ありません」と言われても、疑うしかない。また、撮り直しが行われない理由の一つに「講師との契約を終了しており、新しいものを撮れない」といった消極的なものもあるだろう。

商魂たくましい社員たちに押されないように固い意志をもって、自分自身で判断しよう。

*これは完全に余談であるが、数十万円を伴うこともあるこうした契約は、社員ではなく大学三・四年生のアルバイトによって行われることがある。彼らに支払われる賃金はそうした職責にふさわしいのだろうかと、心配したものだ。

3.高速基礎マスター

各科目に大量に用意された一問一答形式の問題をPC・スマホ上で解答する、というコンテンツ。いずれの科目も出題は基礎レベルで、本当に必要かどうか体験期間中に慎重に判断してほしい

ああ、こればかりは思い出すだけで腹が立つ。7万円という値段に見合う価値はなかったと断言しよう。最も重大な欠陥は、英語の訳語が一つしか表示されないことだ。接辞もない。成り立ちもない。派生語もない。類義語もない。対義語もない。例文もない。知的好奇心を刺激する要素は一切ない。さながら拷問である。これほどまでに貧困で荒廃した勉強が他にあるだろうか。間違ってもこれが単語の勉強だと思ってはいけない。これのみで単語の勉強をした者はいずれ必ず壁に直面する。そもそも、ここまで情報を削ってしまっては却って覚えられるものも覚えられなくなる。知識と言うものは、それぞれの関連性の中で結びつき強く記憶されるものだからだ。接辞や類義語の情報は無駄なものではなく、むしろ暗記を手助けしてくれるものなのである。

また、このコンテンツの進捗はスタッフがチェックでき、校舎に登校するたびに「高マス(東進ではこのような略称で呼ばれる)あんまりやってないね」などの声を必ず掛けられる。高マスにかける彼らの熱量は不思議なほどで、自分だけではサボってしまうという人を除けば、時に鬱陶しく感じるだろう。

4.東進主催の模試

大別して二種類ある。共通テストレベル模試志望校別模試だ。

共通テストレベル模試

2ヶ月に一回行われる。学校で駿台が主催する共通テスト用の模試を受験したが、問題の質などで両社に差はないと感じた。採点・返却は東進のほうが圧倒的に速く、東進生は受験すべきだ。

志望校別模試

ラインナップは以下の画像の通りだ。実施される回数はまちまちなので注意してほしい。

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最も受験する機会が多いのは、早慶上理・難関国公立模試及び全国有名国公私大模試だろう。受験学年を対象に2ヶ月に一回行われる。私大っぽい記号問題から国立っぽい論述問題まで、ごちゃ混ぜになっている。結果として、どの大学・学部にも類似しないキメラのような問題が出来上がっている。模試としてはともかく、早慶上理という名を冠するには明らかにふさわしくない。

問題の質は高いとは言えず、駿台や河合塾には及ばないと感じる。また、東大・京大志望者は受験しないため、早慶志望者は自分の立ち位置を正しく把握できないことに注意してほしい。外部受験生の少なさもそれに拍車をかけている。

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↑ 一枚目が東進の早慶上理・難関国公立模試(11月実施)、二枚目が駿台の記述模試(10月実施)だ。前者は文理合わせて12744人、後者は国語・英語・日本史or世界史・地理or公民を全て受験した生徒に限定しても137779人と、その差はまさに桁違いだ。

以上から、外部生が駿台や河合でなく東進のこの模試をわざわざ選ぶ理由はないだろう。ただ、東進生は秋ごろまでは受験することをお勧めする。質が高くないとはいっても、秋ごろまでは自分の苦手分野を発見する良い機会になり得るからだ。秋以降は、過去問もある程度解き終わり補強するべき箇所が自ずと明らかになっているだろう。そうなれば、自分に模試が必要かどうか判断できるはずだ。

*その他の志望校別模試については、筆者は受験しておらず評価できない。ただ、東大本番レベル模試の解説授業をいくつか受講したところ、講師が「(模範解答を示して)こういう読み方はしないようにしましょう」などと言って、講師自らが作成した解答例を示す、といったシーンが散見された。どうやら、講師が作問に関与しないケースもあるらしい。…では誰が作っているのだろうか?

5.過去問演習講座

高三の6月ごろから開講される。こちらも大別して二種類ある。共通テスト対策国立二次私大対策だ。

共通テスト対策

全科目10年分ある。内訳は(センター5年分+試行調査+オリジナル予想問題)であった。来年度からどうなるかは不明。全てに講師の解説授業がついており、そのせいか7万円ほどと高い。

共通テストレベルの問題に解説授業はいらないのではないか、というのが受講後の正直な感想だ。結局、受講しなかった解説授業はいくつもある。

学校で配布された市販の問題集に目を通したところ、そちらのほうが解説はよほど丁寧だった。授業を前提とせず、その解説だけで理解してもらうのだから当然かもしれない。とにかく、共通テスト対策は市販の過去問集や問題集で十分にできる。ただ、進度や達成度が東進にも伝わるためペースメーカーとしての役割は期待できる。自分で出来るか不安な人には、意味があるかもしれない。

国立二次私大対策

第一志望の問題が11年分、第二志望の問題が5年分ある。すべてに講師の解説授業がある(ない学部もあるようだ)。一部の大学・学部では論述の添削も受けられる。解説や添削の有無で値段が変わるが、最も高くて10万円、最も安くて3万円だった。

共通テスト対策を5年分終わらせたあとに取り組むよう指導された。第一志望については8月31日までに終わらせるように指導されるが、達成した生徒は、筆者が所属する校舎にはほとんどいなかった(筆者は達成した。不合格だった身としては自慢にもならない話である)。これに限らず、急かされて雑にこなすくらいなら、指導に沿えずとも丁寧にやるべきだ。

東大・京大は11年と言わず25年は遡れるが、旧帝大や早慶の過去問を11年前まで解説授業付きで解ける機会は、他では滅多にないのではないか。授業のコマ数を鑑みても、費用対効果は高いと考える。ただし、これは解説授業がある大学・学部に限った話である。自分が志望する大学・学部に解説授業がなければ、購入する意義は極めて薄いだろう。もっと安く代替できる手段があるからだ。また、解説は優れているとはいえず積極的に選ぶ理由はない。

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↑ 上の写真は、東進による解説が優れていない例の一つだ。2018年度の早稲田大学 文学部 国語 問19の解説で、和歌Aの区切れが初句切れだというが、正しくは三句切れである。単なる誤字脱字衍字やケアレスミスとは言い難い間違え方で、執筆者は句切れという概念を理解していないのではないかと疑わざるを得ない。昨年末、校舎の社員に誤りを指摘したが、未だ訂正されていない。講師は正しく解説しており、模試と同様に、解説の作成に講師は関与していないことが窺える。問題はこちら
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↑ 採点・添削について
スタッフが誤って、採点済みの答案を再び提出してしまったことがあった。全く同じ答案が二回採点されたわけだが、両者を比べてみて驚いた。というのも、同じ採点者にもかかわらず点数が全然異なっていたからだ。他の大学・学部でどのような採点が行われているのかはわからないが、このような例もあったと紹介したい。
(ちなみに、この問題の配点が20点というのはどう考えてもおかしい。この程度の分量の記述が全体の二割超を占めるわけがない。)

6.志望校単元ジャンル別演習

単品で14万円ほど。9月から開講される。類題演習というアウトプットを大量にこなすことで、入試で得点する力を伸ばそうという趣旨のコンテンツ。日本中の大学の過去問をとにかく大量に解いていく。東進が主催する模試の成績・過去問演習講座の成績と、志望大学・学部を参照して、AI(?)によってひとりひとり異なる問題が提供される。あらゆる過去問がジャンル別・難易度別に分類されており、弱点がはっきりしている人はやるべきことが分かりやすく、量をこなすだけで得点の向上が期待できるだろう。

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弱点を克服し得点を伸ばすためのコンテンツで、インプットはもう済んだから大量にアウトプットしたいという人にはお勧めだ。一方、過去問や模試で全く点数が足りていない人は、他にやるべき勉強があると感じる。講師による解説授業はなく、東進が作成する文章による解説のみで理解しなければならないからだ。少ないながらも、易しい大学の過去問の中には文章による解説すらない場合もあり、万全の解説がなくとも問題ない程度の学力を伴っていないと厳しいだろう。

7.第一志望校対策演習講座

志望する大学・学部に対応した類題や過去問を学習するコンテンツ。上記のコンテンツを経て高め切った学力を志望大学の傾向に適応させる、最後の仕上げのような印象を受ける。

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こちらも解説授業はないため、東大・京大など解説付きの大量の過去問が市販されている場合には、あまり必要ないだろう。一方、志望大学の過去問が少ししか手に入らない・類題をたくさん解きたいという人は購入してもいいかもしれない。

また、このコンテンツ独自の要素としてアドバイス資料というものがアピールされる。学部の傾向を分析して簡単なアドバイスをするもので、案外しっかり分析しているのだが、過去問演習講座を11年分受講した人にとっては既知の内容でアピールするほどのものではない。

8.総評

講師の授業は全般的に優れているが、東進のコンテンツは全般的に劣っている。筆者が東進に通って抱いた感想はこれだ。当たり前といえば当たり前のことだ。講師陣は他所で育ち切った精鋭をかき集めている一方、そうした講師が関与しないところで東進のコンテンツ(模試・高速基礎マスター・志望校単元ジャンル別演習・それらの解説など)を作っているのだから。東進は歴史が浅く、模試を始めたのは2010年、単元ジャンル別演習は2018年からだ。駿台模試が1982年から、河合塾模試が1972年からとなっているのを見れば、東進模試(及び他のコンテンツ)が低品質なのは必然にも思える。何しろ年季が違うのだ。良く言えば伸びしろがある、悪く言えば作り込みが浅いということだ。

講師の授業については、講師と生徒の相性も関係するから、人それぞれの評価があり得よう。しかし、東進のコンテンツが劣っていることは、おそらく誰もが感じる。もっとマシなものを作ってくれ、という思いがある。講師の授業は高三の夏休みを以って終了し(講習講座の購入など例外はあるが)、以降は東進のコンテンツがカリキュラムの全てとなる。筆者は、秋以降、東進のコンテンツへの信頼を急速に減じた。

筆者が犯した最大の過ちは、東進から提案されたコンテンツはことごとく購入しなければならないと勘違いしていたことだ。もちろん購入して良かったものもあるが、一方で、購入せずとも良かったものや他の手段で代替できたものもある。全てのサービスが基本的にオンラインで展開されるためであろうか、東進のコンテンツは事実上際限なく購入を勧められる。というか、購入しない選択肢は最初からテーブルに存在しておらず、購入するのは前提でその中から何を選ぶか、と言う形で商談が進む。しかし、本当に必要ないくつかのコンテンツを吟味して購入し、一定期間のみそれらに取り組み、他の時間は東進の自習室で自分の勉強をする──そんな東進生のあり方もあってよかったのだ。そう筆者が気づいたのは、共通テスト後、全てのコンテンツで100%の進捗を達成した時であった。本稿が冷静で賢明な判断の助けになることを願ってやまない。

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