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家族の再生@石巻

  宮城県石巻から船で1時間行った海の上に浮かぶ多部島。そこで暮らす漁師の兄弟と、東京からやって来たワケあり漫画家の突然始まった共同生活は、やがて彼らの止まっていた時間を動かしていく。
 自然豊かで時間がゆったりと流れる離島で繰り広げられる田舎の青年2人と都会から来た女性のユーモアと愛情にあふれた「再生の物語」だ。
 不器用な人間たちの必死な生きざまが織りなす、笑いと涙に満ち溢れた作品「さよならほやマン」(2023年/監督・脚本:庄司輝秋/106分)は2023年11月3日(金・祝)、新宿ピカデリーほか全国公開となる。


 阿部アキラは石巻の特産である「ほや」を素潜りで獲っている。だが、アキラと弟のシゲルは海のものを一切口にせず、カップラーメンばかり食べている。それは12年前の震災で、両親が海で行方不明になってからーー。
 そんな折、東京から島にふらりとやって来たブルーに髪を染めた売れっ子漫画家、美晴が兄弟の前に現れた。3人のありえない出会い、それはおかしくも涙を禁じ得ない奇跡の始まりだったーー。
 アキラがお蔵から引っ張り出してきた被りものキャラ「ほやマン」。これは全国津々浦々に広まったご当地キャラのパロディではないか?そして、今流行りのYouTubeへの皮肉も込められているような話も。
 監督を務めたのは本作が長編デビューとなる庄司輝秋(しょうじてるあき)。CMディレクターとして活躍してきた庄司監督が、故郷・石巻への熱い想いを胸に、石巻市の沖に浮かぶ網地島でオールロケを行った。
 企画・製作は山上徹二郎(やまがみてつじろう)。1986年にシグロを設立、代表になる。それ以来80本以上の劇映画、ドキュメンタリー映画を製作・配給する。ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ内外で多数受賞。

音楽で醸している生きざま
 主人公のアキラを演じるのは、人気バンド「MOROHA」のMCとして活躍するアフロ。MOROHAは音楽を愛する若者たちから絶大な支持を受けている。「演技に長けている人は他にいたはずだ。それでも「お前じゃなきゃダメだ」と言ってくれた。それは「音楽で晒している生きざまをぶつけろ」」という監督から与えられた使命だと思った」とアフロはいう。

アフロが演じる阿部アキラ ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE


 東京からやって来る漫画家の美晴役には呉城久美(くれしろくみ)。NHK連続テレビ小説や大河ドラマに数々出演してきた。呉城はコメントした。「映画に関われる喜びに満ち満ちた日々・・・何度でもあの夏に戻りたくなって、いまだに恋しくなることもありますが、「さよならほやマン」があの時間をちゃんと残してくれてるんだろうと思うと、すごくほっとします」。

呉城久美が演じる美晴 ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE


 弟シゲルを演じるのは、これが俳優デビューとなる黒崎煌代(くろさきこうだい)。趣里主演の2023年度後期のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」で趣里の弟役に大抜擢された彼は注目の新星だ。「約3週間の撮影期間ずっと島民の皆様の暖かさに感動していました。そんな暖かさで満ちた島の雰囲気がそのまま作品に投影されているように感じます」(黒崎)。

黒崎煌代が演じる阿部シゲル ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE


 さらには、津田寛治や松金よね子といったベテラン勢が、若者たちを見守る島の住民に扮して作品の世界に厚みを加えている。

津田寛治(左)と松金よね子 ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

外部からの視点を担う美晴
 映画評論家の松崎健夫によると、宮城県石巻の離島が舞台となる「さよならほやマン」では”共同体”=”島”へやって来る者と出てゆく者とがいるという物語構成になっており、観客もまた共同体の外側に位置するため、外部からの視点を担う漫画家・美晴の存在が重要なのだという。
 「彼女が異質な存在として島にやって来ていなければ、「ほやマン」の復活はなかったはずだ。ある意味で美晴は、新たな価値観を生み出す「ほやマン」的存在なのである。疾風のように現れて疾風のように去ってゆくヒーロー。まるで彼女は、西部劇で描かれてきた風来坊のようではあるまいか」と松崎はコメントした。

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