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映画「悪い子バビー」

 映画にはただ楽しむだけの作品もあるだろう。芸術作品もある。啓蒙的な映画もある。この映画は果たしてどうなのだろうか?
 一般社会とかけ離れた過酷な環境で育った男バビーが、多くの人々と出会い、そして音楽に導かれて自分自身を発見する旅。
 映画の始まりは、立派なおじさんであるバビーが母親にひげをそってもらい、身体を拭いてもらっているシーンであり、”友だち”が紛れ込んだ猫だけだということがバビーが置かれている環境を端的に表している。
 バビーは母親に命じられるまま、閉じこもって生きてきた。だが、悲惨な境遇に不安を抱きながらも、観る者を衝撃的な感動でやがて包みこむ。
 映画「悪い子バビー」(1993年/オーストラリア=イタリア合作/114分)は第50回ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞ほか全3部門を受賞。瞬く間に評判となり、20か国以上で上映され、ノルウェーでは年間興行収入第2位にランクインする大ヒットを記録。
 2023年10月20日(日)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
 「ドアの外に出れば、汚染された空気の猛毒で命を落とす」。そんな母親の教えを信じ、35年間、暗く汚い部屋に閉じ込められていたバビー。身の回りのすべてを母親が管理し、ただそれに従うだけの日々を送っていた。


 ”友だち”の猫をラップで包んで死なせてしまうバビー。息苦しいほどの監禁に何十年も慣らされてきたバビーであるかのような猫。
 殺風景な部屋の壁にかけられているキリスト像。悲惨な日々を送るバビーを見捨てているのか?神はなぜ沈黙しているのか?
 ところがある日、何の前触れもなく”父親”だと名乗る男が帰って来たことをきっかけに外の世界、すなわち未知の世界へとバビーは逃げだした。
 言葉、音楽、暴力、宗教、美味しいピザ・・・刺激に満ち溢れた外の世界で、純粋無垢なバビーが大暴走する。


 行く先々で出会う誰もが彼の自由で荒々しいスタイルに巻き込まれていく。そのうちに家族ではない人たちの中にこそバビーにとっては「真の家族」がいるのだということに気づかされるだろう。


 監督・脚本はロルフ・デ・ヒーア。1951年、オランダ生まれ。ヒーアは言った。「「悪い子バビー」は本当に唯一無二の作品です。愛する人もいれば、憎む人もいるでしょう。大切なことは、誰もが異なる視点で観て、異なる意見を持つということです」。
 「ひどく傷ついた人々であっても、私たちが十分な愛と思いやりと配慮を持って彼らに接すれば、ある種の幸福へとつながる可能性があるということは知っていてほしいと思います」。


 バビーを演じたのはニコラス・ホープ。「あの男(バビー)の心の中で何が起こっているのかいつでもすべて正確に理解できる。ある種の共生のようなものを感じましたね」とホープは話した。





 

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