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映画「沖縄戦の図」

 ノーベル平和賞候補になった水墨画で風景画家の丸木伊里(1901-1995)と人間画家の丸木俊(1912-2000)夫妻。
 二人は「原爆の図」「南京大虐殺」「アウシュビッツ」と40年にわたり、戦後一貫して戦争の地獄絵図を描いてきたことで知られる。
 丸木夫妻が沖縄戦について最晩年に描いた14部の絵の制作を追ったドキュメンタリー『丸木位里・丸木俊 沖縄戦の図 全14部』が上映される。

ドキュメンタリー『沖縄戦の図』ポスター

 2023年6月17日(土)より沖縄の桜坂劇場、23日(金)より宮古島のよしもと南の島パニパニシネマにて先行公開される。
 続いて、7月15日(土)~28日(金)にポレポレ東中野、8月1日(火)~6日(日)に東京都写真美術館ホールほかで全国順次公開される。
 1945年の沖縄戦の写真は、アメリカ側が撮影した写真しか存在していない。そこで二人は「日本人側から見た記憶を残しておかなければいけない」と、82年から87年に沖縄戦を取材した。
 沖縄で、体験者の証言を聞き、生々しく残る戦地を歩き、村人も参加する開かれたかたちで制作されていった。
 その結果、丸木夫妻が描いたのが「沖縄戦の図」14部(「久米島の虐殺1,2」「暁の実弾射撃」「亀甲墓」「嘉屋武(きやん)岬」「ひめゆりの塔」「沖縄戦ー自然壕」「集団自決」「沖縄戦の図」「ガマ」「沖縄戦ーきやん岬」「チビチリガマ(という集団自決が行われた鍾乳洞)」「シムクガマ(という、住民が立てこもったが集団自決を免れ脱出した鍾乳洞)」「残波(ざんぱ)大獅子」)である。

丸木位里・俊夫妻 (写真:石川文洋)

 完成した「沖縄戦の図」は、平和を願い描いた二人の作品群の中でも、あますことなく戦争の悪を描き、日本軍の愚かさを伝えてその記憶を未来へ伝承しようとする怒り溢れる作品となった。
 「沖縄戦の図」全作品は、米軍から「美術館建設のためなら」と返還された先祖の土地に建てられた佐嘉眞(さきま)美術館に収められている。

佐嘉眞美術館

 多くの人が戦争体験を語ろうとしない中、沖縄戦については沖縄民謡の歌詞としても残っている。若い沖縄民謡唄者の新垣成世(なるせ)さんと同級生で平和ガイドでもある平仲椎菜(ひらなか・わかな)さんが「沖縄戦の図」などから戦争について学び、民謡でも戦争体験を継承していく姿も映画に織り込まれている。
 河邑厚徳(かわむら・あつのり)監督は語っている。「(今年5月に開かれた)G7広島サミットを見ていて、「沖縄戦の図」が宜野湾の佐嘉眞美術館に収められている意義は想像以上に大きいと感じました」。
 「映画では、初めて沖縄戦の図・全14部をのこらず紹介しました。絵に描かれていたのは「空爆」や「空襲」とは違う様相を見せた地上戦の真実、愚劣な軍隊、嘘と洗脳で死んだ民間人でした。二人の画家は終戦後に起きた久米島の虐殺から描き始めましたが、最後は読谷村(よみたんそん)の戦後を描ききって未来の沖縄へと希望を託しました」。

読谷村三部作チビチリガマ  一部
渡嘉敷集団自決を生き延びた吉川嘉勝さん



 
 

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