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ロック・レジェンドが一堂に

 ロック・レジェンドたちが一堂に会したカナダ版ウッドストックともいえる「トロント・ロックンロール・フェスティバル 1969」。そのロック史を大転換させた、情熱と偶然、危機と奇跡が織りなす笑いと涙の舞台裏が明かされるドキュメンタリー映画がやって来る。
 1969年9月13日に行われた同フェスティバルを、最近発見された8ミリフィルムによるバックステージの様子も織り交ぜながら、描いた『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』(2022年/カナダ、フランス/99分)。監督はロン・チャップマンが務めた。
 2023年10月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほかで全国公開。配給はSTAR CHANNEL MOVIES。


 チャック・ベリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイス、ボ・ディドリーといったロックの創始者たち、シカゴ、ドアーズといった当時の人気者、無名時代のアリス・クーパーらが出演。
 だが、ヘッドライナーは何と言ってもジョン・レノンだった。エリック・クラプトン、アラン・ホワイト、クラウス・フォアマンを従えて、ヨーコ・オノとともにステージに立った。
 ビートルズとしてのライブ演奏以来初めての公の前でのステージとなり、「ビートルズの呪縛から解放された瞬間」だったという。

ビートルズの呪縛から解放
 ジョンはトロントに行く前にポール・マッカートニーに「ビートルズをやめる」と伝えていた。「エリックやクラウスにも私はやめると告げ、ひょっとしたらグループとしてやってもらうかもしれない、と言っておきました」とジョンは語っていた(「レノン・リメンバーズ」草思社)。
 トロントのフェスは、実際にビートルズが、ポールの脱退宣言で、実質的に「解散」する7か月前のことだった。ジョンとヨーコに他のメンバーたちが加わる「プラスティック・オノ・バンド」のデビューでもあった。
 トリを務めたドアーズのフロントマン、ジム・モリソンは「音楽史に燦然と輝く天才たちと同じステージに立てた」と感動を隠さなかった。そのモリソンが27歳でこの世を去るのは、それから2年後のことだった。

人間回帰=リバイバル表明
 1950年半ばに始まったベトナム戦争は悪化の一途をたどり、若者たちによる反権力運動は「平和と愛」の名のもとに高まって、ヒッピー文化そしてフラワー・ムーブメントが増長していた。
 また、「フォークソング・リバイバル」の時代だった。ジョンらが壇上で「平和を!」と叫ぶのは泥沼化する戦争への反対意志であり、フォークソングよろしく人間的な精神回帰=リバイバル表明でもあった。
 アリス・クーパーは言った。「あらゆる革命が起きた時代。若者が体制を揺さぶった。『トロント・ロックンロール・リバイバル』はその十字路で起きた」と、その意義を強調していた。
 音楽評論家の萩原健太氏は言った。「半世紀以上前、まだまだ未成熟だったポップ・ミュージック・シーンで繰り広げられた愛すべき右往左往。大いなる試行錯誤。ここには69年の段階で誰一人が想像もしなかったくらい大きな意味が潜んでいたということ。そんな事実を思い知ることができる」。

音楽市場の一大変革へ
 また、DJのピーター・バラカン氏は「このフェスの後、本格的なロックンロール・リヴァイヴァルが始まり、70年代初頭から各レコード会社が積極的にチャック・ベリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセント、ボー・ディドリー、ジェリー・リー・ルイス、ファッツ・ドミノ、エディ・コクラン等のレコードを新たに発売し始め、音楽市場の一大変革が起きます」
 「50年前にラジオ番組宛にチャック・ベリーのリクエストを出していたぼくは、現在毎週のようにあの時代の曲のリクエストを自分の番組で受けていますが、そう考えるとこの映画に関わった関係者全員にあらためて巨大な拍手を送りたいです」とバラカン氏はコメントした。
 (この記事の最初の写真は© ROCK N' ROLL DOCUMENTARY PRODUCTIONS INC., TORONTO RNR REVIVAL PRODUCTIONS INC., CAPA PRESSE (LES FILMS A CINQ) 2022)

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