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孫崎享が語る台湾有事

 元外務省国際情報局長で現在は東アジア共同体研究所理事・所長を務める孫崎享(まごさき・うける)さんは、台湾有事といわれる問題を考える際、ウクライナ問題がちょうど鏡のようにだぶって見えるという。
 安倍晋三首相(当時)は早い段階で、ウクライナのゼレンスキー大統領がNATOに入らないということと東部2州により広範な自治を与えることに同意していればロシアとの戦争は防げると語っていた。
 しかし、その見方はほぼ完全に封じられてしまった。「安倍さんは昨年3月時点の日本では最も力を持った人物でした。安倍さんより力が強いのは誰かというとアメリカですよ。そこが国際政治を日本で考える時の出発点なんです」と孫崎さんは2023年9月26日(火)に述べた。

孫崎享著「戦後史の正体」 


 孫崎さんは「台湾有事と日本外交・日米同盟」と題した講演会をスペースたんぽぽ(東京都千代田区神田三番町3-1-1)で行った。
 「世界は大変動の時代に入っています。過去はアメリカを中心としたG7が世界を動かした。日本もその一員ですが、もうその時代は終わりました・・・世界で一番情報分野で強いのはCIA(米中央情報局)。CIAにはWorld Fact Bookという報告書があって経済力を比較している」と孫崎さん。
 孫崎さんによると、各国のGDP(国内総生産)を購買力平価でみると、米国がおよそ29兆ドル、中国が約21兆ドル、日本は約5兆ドル。G7合計で41兆ドルに対して非G7の上位7か国で49兆ドル。孫崎さんは言う。「もはやG7が世界を動かす時代は過ぎ去ろうとしています」。
 さらに日本の文部科学省の研究所の発表では、1998-2000年に研究論文数に関してはアメリカが全体の48.5%を占めており、続いて英国の11.3%でちなみに日本は4位で7.3%だった。
 それが2018-2020年になると、中国が33.4%、アメリカが31.8%となって日本はといえば12位でわずか4.0%だった。「これだけ落ちた国はありません。今年の発表をみても、日本より上には韓国やイランがいます。日本の落ち方は異常です」と孫崎さんは述べた。

経済安保で損するのは日本
 現在、「経済安保」という言葉が使われて中国との技術交流にストップがかけられているが、孫崎さんは「1998-2000年だったら、技術交流を止めたら困るのは中国でした。経済安保をその時にやるなら、ある種の合理性があったのですが、今はどちらが損をするのでしょうか」と問うた。
 「それは日本でしょう。それが今、経済安保をやろうといっている。また、武器になるようなものを止めるとなるとほぼすべてですよ。当然中国は対抗します。どちらが損するか、ちょっと考えればわかる。これは日本の国益ではなく、アメリカの戦略の中に日本を位置づけて、例えば日本エレクトロンといったように名指しして、中国と協力させないといっている」。
 「日本の対中政策は日本の国益を離れてしまっている」。


 さて、アメリカと中国が台湾海峡で戦ったらどちらが勝つのだろうか?孫崎さんは答えた。「もはやアメリカは勝てません。2015年でしたか、アメリカのランド研究所が発表しましたが、核戦争は除外するとして、通常戦力で戦った場合、重要なのは制空権だといいました」。
 「しかし、アメリカは制空権をとれません。戦闘機がいかに優秀でも、どこかから飛び立たないといけない。沖縄の米軍基地なら嘉手納ですが、そこの滑走路を壊されたらもうダメです」と孫崎さん。
 「中国のミサイルは2000年頃はまだそれは無理でした。しかし精度が上がって2015-16年にはもう1500-1600発のミサイル攻撃が出来るといっている。もうアメリカは勝てません」。

沖縄の辺野古に意味はなし
 「沖縄の辺野古は軍事的には意味がありません。2000年頃までなら意味はあったけれど、今は作っても潰されるだけ。だけどアメリカの指示によって具体的に動くのは日本人。いつの間にかアメリカの意思とは別に日本人の国民性なのか、頑張っちゃうんです」。
 台湾の人たちのうちどのくらいが独立したいと思っているのだろうか?「7割くらいの人が現状維持を希望しているといいます。台湾の人たちは自分たちで独立しようとは思っていない。それなのに煽っているのは日本では麻生(太郎)さん。そしてアメリカ」だと孫崎さんは見ている。
 麻生元首相は「敵基地攻撃能力」と持つべきだとし、もし台湾で大きな問題が起こったら「日本の存続危機」になってくるとの認識を示している。
 孫崎さんは語った。「日米関係を考えた時、アメリカが一番使ったのは麻生さんだと思います。福田康夫さんが潰された理由はほとんど知られていない。福田さんはある時突然総理を辞めると言いました」。
 「G7の会議で福田さんはアメリカからアフガニスタンで日本の自衛隊に輸送と医療に従事してほしいと要請されましたが、福田さんは断ったのです。その1週間後、米国防次官補が日本に来て、アフガニスタンに関するリクエスト・リストを突きつけました」。

現状のままでいい台湾
 「台湾は現状のままにしておけばいいのに、麻生さんやアメリカがちょっかいを出した。過去の日中間の約束をみていくと、田中角栄と周恩来が日中共同宣言を出して国交が回復した。中国は日本に対して要求を一切しなかった。その大きな取引の中に台湾問題があるのです」。
 「台湾は中国の一部であるといい、日本はそれを了解したのです。そこから日本は台湾との外交関係を断ち、通商関係のみとなったのです。その後の日中平和友好条約でも共同宣言を尊重すると確認しました」。
 今、中国は日本との対話を断っている。しかし、孫崎さんは「「村山談話を継承し守る会」の団長として訪中します。日中平和友好条約の記念日に北京大学と精華大学の教授と一緒にパネルに出て30分話します」と言った。

孫崎享著「朝鮮戦争の正体」 
孫崎享著「アメリカに潰された政治家たち」

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