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「3・11と障害者」の映画

 地震や火災などによる大災害が起きた時に一番脆弱な立場に置かれてしまうのはいうまでもなく弱者ー例えば子ども、女性、高齢者そして障害者だ。
 障害者が働く・活動する・生活することを支援する事業所の全国組織「きょうされん」は、大災害時における障害のある人の状況といかに支援者たちが活動したかを描く劇映画「星に語りて~Starry Sky~」を制作した。
 ミニシアター「シネマ チュプキ タバタ」(東京都北区東田端2-8-4)で、その映画を2024年7月17日(水)に観た。

 この映画は2011年3月に起きた東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生した際に、障害者と家族たちがいかなる状況に置かれて、それに対して支援団体がどのように活動したかが軸となっている。
 だが、これは必ずしも障害者が主役の映画でないのではないかと思った。危機の時に人間の本質が出るとよくいわれる。その意味でも、「人間って?」という根源的な問いに対する答えに繋がるであろう様々なヒントがたくさん散りばめられた作品だと私は受けとめた。
 上映後に行われたトークで松本動(まつもと・ゆるぐ)監督は「私はもともとは福祉に関心がある人間ではなく、ただオファーを頂いて作ったんです・・・障害のある人が登場人物の一人、エキストラの一人として普通に出てくるような映画を作っていきたいと思っています」と述べた。

松本動監督
ⓒきょうされん


 「NPO法人きてん」(本部:横浜市保土ヶ谷区)の島田直樹理事は「自助共助公助」ってよくいわれますが、自助共助しかなかったところに「ずっと遠くから公助がやって来た」と話した。
 岩手の障害者支援施設の所長を演じた劇団すばるの要田禎子(ようだ・さちこ)さんが一番印象に残ったのは車いすに乗った女性・横川さんの「演技」だという。「温かいんですね。横川さんの言葉はね、そのまんまなんです。台本通りなんですけど、そのまんまなんですね」。

松本動監督、要田禎子さん(中央)、島田直樹さん(右)


 東日本大震災による1万8000人を超える死者の中で、障害のある人の死亡率は全住民の2倍。映画で印象的な言葉の一つが被災地で「障害者が消えた」というセリフだ。避難所などに障害者がいないというのだ。
 「障害者だからって特別にかまってもらえる場所じゃない。被災した人たちはみんな大変なんだよ」というようなセリフが度々聞こえ、障害者自身も避難所ではみんなに迷惑をかけてしまうのではないかと遠慮する。
 役所の人間たちには被災者もいて、圧倒的に手が足りない。避難所に来れないあるいは来たがらない障害者たちは置き去りになるが、そこをケアする人たちはなかなかいない実情が分かる。
 役所や法律というのが一つの壁になるわけだが、救いとなったのは「法律をいくら守っても死人が出たんじゃ本末転倒だ」という役人のセリフだ。そう、障害者たちの安否確認のために障害者手帳の交付情報を知りたいのだが、そこで個人情報保護法が壁となった時のセリフだ。
 映画の舞台は二つ。一つは岩手県陸前高田市。高台にある共同作業所「あおぎり」である。もう一つの舞台が福島県南相馬市。3.11とその後の実際の映像や写真が使われている。俳優とともに障害者自身も出演している。
 制作統括は西村直(きょうされん)、企画は藤井克徳(きょうされん)。プロデューサーは新井英夫、脚本は山本おさむ。音楽は小林洋平。
 「きょうされん」は、これまでに4回の映画製作・上映活動を続けてきた。今から100年前に精神病者を救おうと奔走した呉秀三の功績を描くドキュメンタリー映画「夜明け前」に次ぐ5回目の作品がこの劇映画「星に語りて~Starry Sky~」だった。

Cinema Chupki Tabata


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