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「津島ー福島は語る・第二章」

 2011年3月、日本全国の少なくない村々は高齢化の波に巻き込まれて生き残りに苦しんでいただろう。そんな時、福島県浪江町津島には濃厚な人間関係に支えられたコミュニティが生きていた。
 そのことを痛感させられた証言ドキュメンタリ―『津島ー福島は語る・第二章ー』(2023年/土井敏邦監督/187分/配給協力:リガード)。2024年3月2日(土)より K’s cinema(東京都新宿区) ほか全国順次公開。


 これはコミュニティの大切さを説く目的の映画ではない。3.11によって生活を一変させられた津島の住民たちの証言集である。避難を強いられ生活を一変させられた悔しさが静かに溢れている。
 津島は福島県の東部、阿武隈⼭系の⼭々に囲まれた⼈⼝約1400⼈の平穏な⼭村だった。東京電力福島第⼀原発から北⻄に30キロも離れているにもかかわらず、2011年3月11日の事故直後に⼤量の放射性物質が降り注いで、地域の⼤部分が「帰還困難区域」に指定された。
 冒頭、ガイガーカウンターで放射線量を測る場面はある。この映画では原発を糾弾する声は終盤に出てくるのだが・・・

係争中の津島原発訴訟
 原発によって故郷を失わされ、家族がばらばらにされて、コミュニティがばらばらにされたことを恨む声があるのは当然だ。そう、津島の全住民は、3.11後、避難指示を受けて津島を離れた。
 手をこまねいてばかりいるわけではない。2015年には津島原発訴訟原告団が立ち上がり、地区の約630人が原告になっている。
 国と東電の責任を求めて同年に提訴。一審の福島地裁郡山支部は2021年、国と東電の責任を認めたが、地域のすべてを除染して再び暮らせるようにする「原状回復」義務については退けられた。現在、仙台高裁で係争中。

津島原発訴訟の原告役員・三瓶春江さん ⓒ2023 DOI Toshikuni


 2023年3月には、津島の1.6%に過ぎない一部地域が避難指示解除された。しかし、多くの住民は還れないままだ。
 この映画は、東日本大震災後に東京電力福島第一原発事故が起こったことによって一変させられた生活の「アフター3・11」が「ビフォア3.11」をくっきりと浮かび上がらせ、静かな糾弾として胸に迫って来る。

 津島の歴史を記録している今野秀則さん ©2023 DOI Toshikuni
津島診療所で看護師として働いていた今野千代さん ©2023 DOI Toshikuni


 四季折々の美しい自然、鳥たちやトンボなどの虫たち、津島に息づく人々の暮らしー春には山菜採り・夏には盆踊り・秋には運動会、津島診療所で働いていた看護師の思い、津島の歴史を残しておこうとする住民の思い・・・

 津島の春 ©2023 DOI Toshikuni
津島の夏 ©2023 DOI Toshikuni
 津島の秋 ©2023 DOI Toshikuni
津島の冬 ©2023 DOI Toshikuni


 時々、挟まれる住民たちが撮った地区の写真、古くは満州開拓団の人々の入植を記録した白黒写真、結婚記念写真など家族写真の数々、地元のイベントの写真が証言に肉付けしてくれるような働きをしている。
 「100年は帰れない」と⾔われた故郷・津島の歴史と、そこで⽣きてきた⼈々の記憶と感情を映像化したのは、『福島は語る』(2018年)の⼟井敏邦監督。裁判記録「ふるさとを返せ 津島原発訴訟 原告意⾒陳述集」に記されていた住⺠たちの⾔葉に衝撃を受けた。

映画「津島」制作の原点
 「ふるさとを返せ! 津島原発訴訟 原告意⾒陳述集」には、32⼈の原告たちが裁判所で陳述した、家族の歴史、原発事故による家族と⼈の⼼の破壊、失った故郷への深い想いが切々と綴られていた。
 土井監督はいう。「「あの原発事故は住⺠ の⼈⽣をこれほどまでに破壊していたのか」と、私は強い衝撃を受けた。「この陳述集の声を映像で記録したい」ーそれが映画「津島」制作の原点だ」。
 ⼟井監督は、「この声を映像で記録したい」と原告32名の元を訪ね歩き、10ヶ⽉にわたるインタビューを敢⾏した。

土井敏邦監督


 その中には、避難先で起きた⼦どもたちへの差別といじめについての証⾔もあった。「放射能が移るから近寄るな」、「ばい菌」。
 総勢18名による、全9章、3時間を超える圧巻の語りの数々。その聞き⼿となるのは、災禍の時代を共に⽣きる私たち⼀⼈ひとりだ。

 監督・撮影・編集・製作:土井敏邦、整音:藤口諒太
 音楽:李政美(歌・作曲)、武藤類子(作詞)
 写真提供:森住卓、宣伝デザイン:野田雅也、尾尻弘一
 WEBデザイン:ハディ・ハーニ、 配給協力・宣伝:リガード  
 公式ホームページはhttp://doi-toshikuni.net/j/tsushima/
(冒頭の写真 ©️MASAYA NODA)
 

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