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チベットNPO報告会

 チベット人たちの切実な思いが天に届きますように、チベットに平和と自由がありますようにーーそんな願いを込めて1997年に設立されたルンタプロジェクトという名称のNPOがある。
 ルンタの「ルン」はチベット語で「風」。「タ」は「馬」。そうルンタとは「風の馬」で人々の願いを仏神に届けるメッセンジャーのことだ。現地では峠とか寺の周りとか家の屋上にルンタの絵が貼ってある。
 色があせた頃に願いが叶うといわれているそうだ。

ルンタの絵


 ダラムサラを拠点とした現地での難民支援活動と日本国内でチベット文化やチベット問題を知ってもらうための活動からスタートした。
 ルンタプロジェクトの中原一博代表が帰国したのを機に2024年4月13日(土)、チベットレストラン&カフェ「タシデレ」(東京都新宿区四谷坂町12-18四谷坂町永谷マンション1F)で報告会があった。

チベットレストラン&カフェ「タシデレ」


 中原代表によると、ルンタプロジェクトはネパールで3つの団体とつきあいがあるという。一つは、12~16歳の少女をターゲットとしたネパールからインドで性奴隷として働かせる人身売買被害者を助けてネパールに連れて帰る活動をしているグループ。
 二つ目が、HIVになっている女性と子どもを支援している団体。そして三つ目が身体障害者支援グループ。
 まず最初に現地で撮影した映像の紹介があった。
 最初はインド・デリーの娼婦街への潜入場面だ。隠し撮りした生々しい映像がスクリーンに映し出された。説明は中原代表自身が行った。
 デリー中心部の普通の通り。そこから狭い路地を入っていったところに娼婦街がある。通りを通っていても分からない。
 映像を見ながら中原代表は「明らかにネパール人で18歳以下の子たちもいます。買うフリをして部屋に連れて行きましたが、スタッフから今はやめておいた方がいいということになりました」と話した。

客待ちをする女たち


 その娼婦の集まるところには小部屋がいくつも並んでいる。
 レスキューのために警察と一緒にガサ入れをするが、だいたいその前に情報が洩れていて、女性たちは隠し部屋に入れられていると中原代表。
 扉をこじ開けると中から女たちが出てくる。10人以上いたことも。

隠し部屋にいた女性たち


 「今は娼婦街というよりはホテルや一般の家が娼館になっていることが多い」と中原代表は説明する。
 中原代表によると、親が娘を売るケースが10%、親戚も含めて20%、薬とかで誘拐されるのが10%、残りはいい仕事があるとか大学に行かせてあげるなど騙されて連れていかれるケースだという。
 「最初に逃げないように強姦されます。そして一日に20人とか相手をさせられるようになります」。
 HIV患者の女性や子どもたちの支援活動について中原代表は「性を売ることよりも一番多いのが出稼ぎの旦那がHIVをもらって帰って来て奥さんがHIVになるというケースです」という。
 「ネパール政府は今はHIV治療薬だけを支援しています。今の薬はそこそこよくてAIDSにならない。ただ現状維持ですが・・・」。
 「HIV患者の自立支援のため靴やスリッパ作りを教えていて、外の出店で製品を売っています」と中原代表はいう。
 それとシンガーソングライターの浜田省吾さんは年間50万円、現地の学童支援をしてくれているという。
 ネパールの人身売買は年間4~5万人くらいで、そのうち性奴隷として売られて行くのが1万2千人程度だという。インド・ネパール国境を行き来するのにビザが要らず売られやすいし、中東に売られるケースもある。しかし、だいたいはインドの娼婦街に売られるのだという。
 モンゴロイド系のネパール女性が人気なのだという。色が白いから。

ルンタプロジェクトの中原一博代表と武田ミカさん


 あと、身体障害者支援も行っているルンタプロジェクト。年間50~60万円程度の支援ですが、それでもその前まで道上で乞食のような生活をしていた障害者たちにとっては大きな助けだという。
 中原代表は「障害者への(ネパール)政府からの支援は全くありません」と話す。彼らは自立のためフェルト製品を作っている。
 「人身売買の最大の要因は貧困」だと中原代表はいう。「ネパールはミャンマーとアジア最貧国を争っています。観光業がメインですが(2015年の)地震やコロナ禍でどんどん貧しくなっています」。
 「投資するような会社や工場もなく、仕事がないのでみんな出稼ぎに行きます。出稼ぎ国家です。男は中東やマレーシアの建設現場に行くのが多い。そして最近は韓国への出稼ぎも多くなっている」。
 また背景には宗教も。「ヒンドゥー教では穢れや不浄を嫌がります。また人々の心の中に差別意識がまだあるのです」。
 話は戻って人身売買被害者レスキューだが、インドでは18歳より上の売春は合法で、そういう娼婦たちの「人権」を訴える運動があって「活動がやりにくい。警察も動いてくれない。だから、インドからの救出は今ストップしているところです」と中原代表は話す。
 そのため、ルンタプロジェクトとしては、ネパール国内の人身売買にこれから取り組もうと話しているところだという。

人身売買された男の子たちが救出されてネパールに戻り食事


 障害者の人たちについて、中原代表は「家族が彼らを簡単に捨てていまう。もちろん貧困がベースにあるのだけど、面倒を見切れない。乞食状態だった人たちが今はシェルターに一杯入っています」という。
 さらに中原代表は付け加えた。「皆で暮らせるシェルターに入って食べられると生活が大きく変わります。HIVであれ障害者であれシェルターに一旦入ればみな明るいです」。
 中原代表は1952年広島県呉市生まれ。インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究。それをきっかけにインド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。建築家だ。
 中原さんの情熱の源泉は何かと問われて「自分たちのことをprofessional beggarと言っています。カネを集めて誰かのために役立てようと思って。それとダラムサラで仏教を勉強したことも関係していると思います。そして実際に行動しなければいけない。自分の責任とすることが大事です」。


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