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映画「燃えるドレスを紡いで」

 ファッション産業は原材料調達、製造、輸送から廃棄までにかかるエネルギー使用量やライフサイクルの短さから環境負荷が非常に大きいと指摘されている。石油産業に次ぐ「二番目の環境汚染産業」とまでいわれるほど。
 日本だけでも一日に焼却・埋め立てされる衣服は1300トンで大型トラック130台分にあたる(環境省)。流行に翻弄され、また安価なファストファッションによって、次から次へと衣服を手にしては手放すという消費者の行動も問題視されている。
 もちろんこれは日本だけの問題ではない。だからこそ、2019年、フランスで開催された主要7か国首脳会議(G7)の際に、温暖化防止、生物多様性、海洋保護に焦点を当てた「ファッション協定」が結ばれた。
 このファッション産業の環境負荷低減に向けた国際的枠組みには、シャネル、エルメス、バーバリー、ナイキ、アディダス、フェラガモ、H&Mなどグローバルなブランドが顔をそろえている。
 国連が唱えるSDGs(持続可能な開発目標)の一つである「つくる責任、つかう責任」から、内外のファッション企業が温室効果ガス削減に乗り出すなどいわゆる「サステナブルファッション」への取り組みを加速させている中、関根光才監督の「燃えるドレスを紡いで」という映画が封切られる。
 これはパリ・オートクチュールに参加する唯一の日本人デザイナー中里唯馬がそんな環境負荷が高いファッション産業を内側から変革しようといる、その活動に約1年間密着したドキュメンタリ―映画だ。
 新宿のK’s Cinemaで公開中。全国で順次公開される。


 中里は2008年にベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、2009年に「YUIMA NAKAZATO」を設立。翌年7月、日本人では森英恵以来の2人目となるパリ・オートクチュール・コレクションの公式ゲスト・デザイナーに選ばれて、継続的にパリで作品を発表している。
 また、中里は坂本龍一、蜷川実花、ボストン・バレエ、ジュネーブ大劇場など世界のトップアーチストたちとのコラボも行ってきた。
 デザイナーとして衣服と向き合ってきた中里は、「衣服の最終到達点が見たい」とアフリカ・ケニアに渡り、世界中から衣類をゴミとして押し付けられた現実を目にして、打ちのめされた。
 そして帰国し、中里は革新的なアイデアとチャレンジ精神で、未来へつながるデザインのあり方とともに、パリコレに挑む。
 中里は次のようにコメントしているー「もともとは別の企画で知り合い意気投合した関根監督から、2年ほど前に世界の実情を一緒に見に行って
その旅をドキュメンタリーにしないか、と提案されたところからはじまりました。結果的に私のショーの舞台裏のすべてにカメラが入るという
私にとっても初めての経験になりました」。
 「衣服は何処からやって来て何処へ行くのか」。
 「 私たちは普段、息をするように、当たり前のように服を着て生活しています。本作を観た方たちが、少し立ち止まって、衣服って何だろう、何で着ているんだろう、そんな風に考えるきっかけになっていただけましたら嬉しいです。そして自分の目の前にある「衣服」の見えていない部分へ、
想像力を広げていただけたらもっと嬉しいです」。
 「実は見えていないことのほうが大きいと思うので、たどり着く先を本作で垣間見ることにより、服に対する見え方がきっと変わると思います」。

中里唯馬さん


 また、関根監督は「ゴミという問題は非常に深刻です。でもゴミという概念は人間が作ったもの。自然界にはゴミという概念自体が存在しないからです。ならばゴミとされているものを新しい資源として、より本気で捉えられないだろうか?今回、唯馬さんのパリコレの制作プロセスを追いかける中で、ファッションが抱える大きな社会課題にチャレンジしている画期的な技術が日本にあることも知りました」という。
 「近しい夢を見ている人々と共創して、ゴミという概念も、服に対する概念も、もしかしたら「何がオシャレでスタイリッシュなのか」ということに対する概念も、違う角度から見れるようになるきっかけになれればというのが今回の作品です」。

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