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Interview by KUVIZM #13 つやちゃん(文筆家)

ビートメイカーのKUVIZMが、アーティスト、ビートメイカー、エンジニア、ライター、MV監督、カメラマン、デザイナー、レーベル関係者にインタビューをする"Interview by KUVIZM"。

第13回は、文筆家のつやちゃん氏にお話を伺いました。

【つやちゃんプロフィール】
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。論考やエッセイ、インタビューの他、メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等。

公式X:https://twitter.com/shadow0918

つやちゃんさんが文筆家になった経緯等は、既にAVEのインタビューで語られているため、今回のインタビューではつやちゃんさんの今現在と今後について話を伺いました。

KUVIZM:
つやちゃんさんは文筆家という肩書きですが、どのようなお仕事をされているのですか?

つやちゃん:
ことばを使って伝え、表現するという試みです。世の中でまだことばになっていないものを形にしています。

KUVIZM:
ありがとうございます。ご活動の分野は音楽に限定していますか?それとも限定していないですか?

つやちゃん:
音楽が多いですが、文学、映画、コスメ、ファッションなどさまざまです。そもそも音楽について語るにしても、その背景には政治も経済も文化も何もかもが絡んでいて色んな文脈が関連しているので、音楽についてだけ考えていてもなかなかつかめないですね。

KUVIZM:
音楽含め、元々、それらの分野がお好きだったのでしょうか?

つやちゃん:
そうだと思います。最近ようやく自分の好きなものがぼんやりと分かってきて、「華やかでキュートなもの」や「身体と密接に結びついているもの」が好きなんだと思います。音楽のジャンルでもそういったものが好みだし、音楽とことば以外だと一番好きなのはバレエとコスメですね。

KUVIZM:
これまでご自身がインタビューをしてきたお仕事で、思い出深かったお仕事は何ですか?

つやちゃん:
2023年に行なったインタビューだと、Yves Tumorです。そもそもあまりインタビューを受けない人で、これまで3回しかやっておらず、全て英米メディアでの対談。「誰々と話すのであれば面白そうだ」という理由でしかメディアに出る意味を感じていないのでしょうね。けれども、フジロックで来日した際にRolling Stone Japanの小熊俊哉さんが打診したところ、インタビューを受けますと。これは大変だぞということで私と小熊さんであれも聞きたいこれも聞きたいとたくさんの質問リストをこしらえましたが、結局、本人が姿を現したものの、インタビューはメールで返すから撮影だけやろうと言って帰っていったという(笑)。でもYves Tumorクラスの人がメールで返してくれるなんてあるのだろうかと思って半ば私は諦めていたんですが、1ヶ月後ぐらいに返事がきたんですよ!

KUVIZM:
おぉ!

つやちゃん:
でも……通常、記事の枠にもよりますが、音楽メディアでのアーティストインタビューって少なくとも4,000字から5,000字くらいはあるんですけど、Yves Tumorから返ってきたメールの回答は、270字(笑)。でもコメントの1つひとつには確かにYves Tumorらしさが詰まっていて、それをしっかり重みをもって伝えられるよう、回答以外のところを肉付けしながら何とか記事にしました。

KUVIZM:
そういったことは度々ありますか?

つやちゃん:
いや、Yves Tumorだから許されることであって、さすがにそれはあまりないですね(笑)。メールインタビューでも皆さんたくさん回答を返してくださるので。最近だとアメリカ・ユタ州のバンド、The Acesにインタビューした際もメールでしたが、いっぱい返してくれました。メールでもやっぱり人柄が表れるので面白いです。

KUVIZM:
Yves TumorさんとThe Acesは海外の方ですが、海外の方にインタビューする機会はしばしばありますか?

つやちゃん:
ありますね、度々。

KUVIZM:
対面インタビューの場合は、通訳の方が同席するのですか?

つやちゃん:
そうです。媒体によっては、私は同席せず通訳の方にインタビューをお任せするケースもあります。

KUVIZM:
日本語でインタビューをするときと異なる難しさはありますか?

つやちゃん:
通訳を介するとタイムラグが出てしまいますね。
これも最近のインタビューの例だと、JP THE WAVYさんと中国のLexie Liuさんとの対談がとてもエキサイティングでした。私が日本語で喋った内容を中国語に通訳してもらって、Lexie Liuさんが中国語で喋った内容を日本語に通訳してもらって、JP THE WAVYさんが日本語で喋ったものを...という風に二か国語を通訳してもらいながら会話していったのですが、なかなか難しかったです。でも、WAVYのスタジオで対談したので、親密な空気の中でできて良いバイブスでした。

KUVIZM:
ここまで伺ったのは大変だったエピソードでしたが、ご自身が感銘を受けたようなインタビューのお仕事はございますか?

つやちゃん:
最近だとシンガーソングライターの柴田聡子さんのインタビューです。柴田さんは歌詞と歌の絡み合いに一定の緊張感がある表現者で、その独特な感覚がインタビューの受け答えにも出ている方でした。インタビューをしたことで、歌詞と柴田さんの印象が私の中で繋がって衝撃を受けました。インタビューをすると大体が人物と作品が離れていて、良い意味でそこにギャップを抱くことがほとんどなのですが、 柴田さんの場合はそのギャップがなかった。過去には、宇多田ヒカルさんも同様の感覚を抱いた1人です。不思議ですよね。

KUVIZM:
ありがとうございます。普段、インタビューで大事にしていることはありますか?

つやちゃん:
準備。インタビュイーの基本的な情報というのはもちろんですが、自分は“その人やその作品が世の中でどう受け取られているか”ということを明確にします。それって、調べても言語化されては出てこないんですよ。でも、世間には確実にある一定のイメージというものがある。そのイメージの輪郭をはっきりさせさらに強化していくか、あるいはそれを裏切っていくか、インタビューというのは基本的にそのどちらかだと思っています。どちらの作戦をとるかによってインタビューのスタンスが変わってきますね。たとえば今話に出た柴田聡子さんだと、自然体のことばを繋げていくことで私たちが未だ知らないイメージを照射する人、というイメージがなんとなくあります。多少のズレはあるかもですが、まぁ大体そういった印象を世間の皆さんは共通して抱いている。でも、ナチュラルに見えて意外にあの方はリッチなR&Bやストリートのゴリゴリしたヒップホップが好きなんですよね。あと、"ことばの人"と思われがちですが、実はDAWを使うことによってその言語がある程度規定されているんじゃないかと思うところもあった。という考えのもと、柴田さんのインタビューは既存のイメージを"裏切る"方向性で行ないました。

KUVIZM:
文筆家として、スキルアップをしていくために意識していることはありますか?

つやちゃん:
いわゆる音楽ライター的な書き仕事として、200字~1000字の短い文字数で評を書く作品レビューというものがあります。これが、とても難しい。字数が少ないというのは削ぎ落とさないといけないから、本当に難しい。絶対に皆、”何となく雰囲気で書いちゃうフレーズ”というのがそれぞれあるんです。自分もある。そういった手癖をできるだけ使わないということを意識しています。そういう縛りを自分の中に設けていると、「こんな新しい言葉が出てきた!」とか「こんなフレーズ書けるのか!」と自分が裏切られるようなことばが出てくるので面白い。いつも書きながら訓練しているような感じです。

KUVIZM:
文筆家の仕事のどのような点にやりがいを感じますか?

つやちゃん:
それはもう、書いたものに対する感想をいただいた時でしょう。
でも一方で、”結局自分のために書いてるんだな”ということも思います。ミュージシャンは、自分が望む音を出すという行為自体が全てで、その音が出せた時点で目的が達成されているという人がたくさんいるじゃないですか。自分も、書いた時点である意味一旦終わっている気がします。たまたま依頼をいただいているので何かしらの媒体に書いていることが多いですが、それがなかったとしても、自分のnoteとかにひたすら書いているんでしょうね。

KUVIZM:
最後の質問となります。今後やりたいことはありますか?

つやちゃん:
ありすぎて時間が足りないですね……。たとえば今日ちょうど考えていたのは、音楽における組織論について。

KUVIZM:
組織論は意外です。詳しくお聞かせいただけますか?

つやちゃん:
2010年代のポップミュージックというのは、ヒップホップの客演文化やDTMを駆使するシンガーソングライターの存在が浸透したことで、いかに個人のアイデンティティに固着したクセや身体感覚みたいなものを引き立て際立たせるかという試みが行われた時代だったと思います。それがパンデミックで行き着いた結果、最近はバンドのバイブスみたいなものが新鮮に感じられるようにもなってきていますよね。でも、Black Country, New RoadにしてもMÅNESKINにしても、そこに流れているメンバー間の空気感というのはそういった10年代の個人主義を経た上のものだから、以前とは明らかに異なっている。昔多かった、中心人物によるトップダウンの中央集権型組織というスタイルとはもちろん違うし、どちらかというとボトムアップの自立型組織に近い。とはいえ、自立型だけでは組織は絶対に成り立たないですよね。ということは、本人たちも無意識のところで、俯瞰したところから見えざるルールを文化・風土として浸透させている気がするんです。つまり最近のバンドは、組織論でいうところのパーパスのようなものがうっすらと共有されている気がする……といったようなことです。
という風に、全ての事象はジャンルを超えてつながっていて、だからこそ面白いなと思います。

KUVIZM:
なるほど。ありがとうございました。

つやちゃん:
いつもインタビューする側だから、むずむずしてきました(笑)。KUVIZMさんのことも知りたいです。いくつか質問してもいいですか?

……というわけでこの後、つやちゃんさんからインタビューされることに。内容はつやちゃんさんのnoteに掲載されています。
リンクはこちら:https://note.com/shadow0918/n/nf21a5de27577

過去のインタビューはこちら
https://note.com/kuvizm/m/mb5dcc2fd6d61

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Instagram: https://www.instagram.com/kuvizm


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