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『アナログバイリンガル』

 最近、娘は謎の独り言を呟く。
「おはようウヨハオ今日は寒いねネイサナシウコッカイカタタア」
 娘に尋ねると、「お話しているの」
「誰と?」
「女の人」

 私は近くの寺院に娘のことを相談した。
「これは鏡言葉ですね」と住職。
「鏡言葉?」
「あの世の言葉です。実際のあの世の言葉は、我々には理解できない発音をしています。お嬢さんはこの世とあの世の二つの言語を理解して話すことができるのです。そのとき、鏡言葉として我々に翻訳してくれているのです」
「娘は霊と会話しているのですか?」
「会話といっても、自分の中に霊を降ろしています。そのため、言語が連続的アナログになってしまうのでしょう」

「お父さん」
 娘が私をじっと見つめた。
「伝えるよワルイテシイアモデマイイサナンメゴデンシニキサ」
 そうか、娘がずっと会話していたのは──。
「お母さんでしょ」
「聞いたのか?」
「聞かなくても、分かったもん」
 私は娘を抱きしめた。二人分の暖かさを感じた。

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