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『コロコロ変わる名探偵』

「犯人はお前だ!」
 そう言って、探偵はAを指さした。
「え?違う違う」

「犯人はお前だ!」
 そう言って、探偵はBを指さした。
「いや、違うって!」

 電話がかかってきたのは、深夜のことだった。
「どうしたんですか?こんな時間に」
「おかしいんです!」
「何が?」
「結末が変わってしまうんです!」
「は?結末?」
「探偵が犯人を変えてしまうんです!」
「先生、落ち着いて。何があったんです」
「私が犯人の名前を書き込むと、それが毎回書き変わるんです!」
「……先生、疲れているんですよ」
「そうなんでしょうか……」
「結末を話してみてくれますか?」
「探偵が犯人を突き止め、犯人は罪の意識によりその場で自害する。犯人は……あれ、誰だっけ?」
「ははっ、やだなぁ。作者が忘れちゃったんですか?」
「待って下さい。今、探偵に聞きますから」
「は?」
「ああ、そうか。そうだった」
「先生?」
 ブツリと、一方的に電話が切れた。

 次の日、担当者はその作家の訃報を受けた。


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