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『違法の冷蔵庫』

「君達にはこの新型冷蔵庫を大阪支社まで運んでもらう。運び方は自由。費用はこちらで負担する。ただし、絶対に中を見ないように」
 K氏が冷蔵庫に手をかけると、隣で一人の男が耳打ちした。
「中には入っているのは麻薬だ。俺達は都合よく運び屋をさせられているのさ」
 と言って、そいつは冷蔵庫抱えて出て行った。

 K氏は冷蔵庫を車に乗せ、高速を走らせたが、先刻の言葉が頭から離れない。
「もし本当なら警察に届けなければ……」
 K氏は冷蔵庫の中を開いてしまった。しかし中は空だった。K氏はハッとした。これは罠だ。

 大阪支社に着いた。「中を見たものはいなかったか?」の問いに、K氏だけが手を挙げた。
「約束を守れない者に信用は預けられない」予想通りの言葉にK氏は落胆した。

 室内に、あの耳打ちをした男が上品なスーツ姿で入ってきた。
「しかし会社の悪事を知って何もしない者より、正義の心を持った者を、我が社は迎え入れたい」と言ってK氏を見て微笑んだ。

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