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夢の中の人形【実話】

 うちの母が体験したちょっと不思議な話を紹介します。
 怖いというよりは不思議な話です。

 私が生まれる前のこと。
 母の母親、つまり私の祖母が「膝が痛い」と言い出した。
 そのころ祖母は40歳くらいで、膝が痛くなってもおかしくない年齢ではある。
 70歳後半になって膝関節の手術をしたくらいなので、現実的に考えるとこの頃から膝に痛みがきていたんだろう。
 普通なら病院に行くところだが、なぜか“占いの人”のところへ行ったらしい。

 この“占いの人”という単語だけで、かなりうさんくさい。
 だが、祖母と母はこの“占いの人”のところへ行ったのだ。
 その占いの人が言うには、
「家に古い人形がある。膝の痛みはそれのせいだ」
 と言ったらしい。
 なんともうさんくさいが、祖母と母は信じた。

 家に帰ってみても心あたりの人形はない。
 お雛様なども含めて、思い当たる限りの人形を箱や押入れなどから出した。
 しかし、祖母の膝の痛みは治らない。
 病院には行ったのだろうけれど、詳しくは覚えていないらしい。
 母にとっては、病院よりも人形のことの方が印象深かったからだろう。

 数日経ったある夜。
 母は夢を見た。
 夢の中で小さな人形が出てきて、母はそれを見て「窮屈にしている」と感じたらしい。
 母は起きたときに「あの人形は見覚えがある」と思った。
 それは母の姉、つまり私の叔母が持っていた、リカちゃん人形の半分ほどの“おもちゃの人形”だった。
 母は電話して叔母に聞いてみると、
「確かに持っていた。まだ実家にあるはず」と言った。
 このとき、母はまだ実家にいて、叔母は結婚して遠くに住んでいた。
 母は家の中を探し、叔母の『たからもの』と書かれた箱を発見した。開けてみると、夢の中のあの“おもちゃの人形”が入っていた。
 そのとき、人形の髪は伸びていたらしい。


 髪が伸びていたという事実に、
「それって怖くない?」
 と私が聞くと、
「ナイロン製だから伸びてたんじゃないの? 別に怖い気はしなかった」
 と言っていた。
 その時は、「ああ、そういうものか」と納得してしまったが、後から調べると、ナイロン製の方が伸びないみたいだ……。
 伸びる原因は他にも科学的な原因があるらしいので、怖くないと感じたのならいいのだろうか……。


 閑話休題。
 とにかく、その人形かもしれないと“占いの人”のところへ見せに行った。
 占いの人は、「その人形を持ち主に返した方がいい」と言った。
 母は叔母に説明し、叔母のところへ送ってあげたそうだ。
 叔母も別に怖い気はしなかったので、家の中に飾っていたそうだ。

 そのせいなのか、あの人形のせいだったのか。
 祖母の膝は良くなったらしい。


 この話は以前に聞いていて、最近思い出し、再度話してくれと頼んでまとめてみたという経緯だ。
「結局、膝の痛みははその人形のせいだったってこと?」と聞くと、今では看護師になっている母は「気持ちの問題だよね」と元も子もないことを言っていた。
 今その人形がどうなったのかは分からない。
 叔母はまだ持っているのだろうか…。
 今度会ったら聞いてみようと思う。



 余談だが、母の過去の話ではしょっちゅう“占いの人”が登場する。

 私と弟の名前を決めるときに名前の画数を相談しに行ったり、母が結婚する前、結婚が大丈夫かどうかと相談しに行き、「その人(私の父)はやめたほうがいい」と言われたとか。

 そんな風に私が生まれる前の話ではその人物が登場する。
 そしてなぜか“占い師”ではなく、“占いの人”と呼ぶ。

 知り合いなのかとか、どこにいたのかとか、占いのお店だったのかとか、同一の人物なのかなどを聞いても、何故か、
「あまり覚えていない。そういう人がいた」としか言わない。

 そんなに相談に行っていたのに、なぜ覚えていないのか不思議である。
 私にとってはインチキくさい、かなりうさんくさい人物であるが、しょっちゅう相談しに行っていた母の記憶が、なぜか曖昧であるのが、妙に不気味に感じている。
 ちなみに祖母に聞いても同じような返答で要領を得ない。
 余計不気味な存在である。

 今はいないようなので、そもそも存在していたのだろうか。

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