『こいなんかじゃない』
いなくなってしまった。もうどこを探しても見つからないだろう。最近風当たりも強かったし。いなくなっても不思議ではなかった。
ぼんやりと空を見つめる。新しい出会いを探そうかとも思ったが、今はそんな気分にはなれそうにない。なんだろう、この気持ち。ぽっかりと穴が空いたような……。
思えば、物心がついた頃からずっと一緒だった。小さい頃はよく友達にからかわれて、見られるのが恥ずかしかったし、そのせいで喧嘩もした。
それでも、僕には必要だったんだ。大切なものは失ってから気がつく。
それから三年後のことだった。
「戻ってきてる!」
叫ぶ我が子の声が聞こえた。慌てて外に出て空を見上げた。
「まさか戻ってくるなんて……」隣で妻が呟く。「それにしても、やっぱりへんな色よねえ」
新しい真鯉と緋鯉の上に、いなくなったはずの灰色の鯉のぼりが揺れていた。
そうか、やっと気づいた。
これは。
【了】
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