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単発の小説

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単発の短編小説・ショートショートはこちらにまとめています。
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#ショートストーリー

『海のピ』

 真昼間に浜辺を歩いていると、一人の老人が声をかけてきた。 「よそ者か。まだ海を見ていく…

月町さおり
2か月前
16

『彦星誘拐』

 私の勤める保育園では、夏休み前に学芸会の行事がある。内容は七夕伝説だ。それぞれ役が決ま…

月町さおり
2か月前
9

『一方通行風呂』

 ある男が銭湯へとやってきた。 「人生をやり直せると聞いたのですが」 「その通りですが、先…

月町さおり
2か月前
10

『鴛鴦の憂鬱』

 ある日、鴛鴦の雄が窓から訪ねてきた。 「番を探しております!」 「ここは人間の相談所で…

月町さおり
4か月前
8

『本の虫』

 気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。…

17

『同僚の馴れ初め話』

「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」  飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなし…

14

『招いた幸せ』

 初詣の長い列に並んでいると、後ろに並んでいた中年の男が声をかけてきた。 「少しいいですか?」  振り返って見ると、これといって特に特徴のない男だった。後からどんな男だったのかと聞かれても、その問いに答えることが難しい。それほど平凡な男だった。  男は言った。 「私はここの神です。私の前に運良く並んだ貴方に、幸福を差し上げます」  春先には浮かれたやべえ奴が出るとはよく聞くが、こんな元旦からも出没するのか。そう思いながら軽くため息をつき、特に返事をすることもなく、俺は参拝の列

『特別な公演』

 K氏はここ数日、パソコンの文字カーソルが点滅するのを眺めるだけの日々を送っている。早い…

43

『最後の雨雲』

 ライトの光で道を照らし、集合場所へと向かう。道中で空を見上げると、雨雲が空を覆った。暗…

15

『君に贈る火星の』

『やあ、荷物は届いたかい?』 『ええ。これはワインかしら』 『火星産の特別なね。それで、前…

19

『数学ギョウザ』

「博士、今度の発明はなんでしょう」 「うむ。しばし待て」  そう告げると、博士はキッチン…

14

『金持ちジュリエット』

 ジュリエットはその町一番の、金持ちの家の生まれだった。彼女の周りには生まれる前から財、…

15

『アナログバイリンガル』

 最近、娘は謎の独り言を呟く。 「おはようウヨハオ今日は寒いねネイサナシウコッカイカタタ…

20

『違法の冷蔵庫』

「君達にはこの新型冷蔵庫を大阪支社まで運んでもらう。運び方は自由。費用はこちらで負担する。ただし、絶対に中を見ないように」  K氏が冷蔵庫に手をかけると、隣で一人の男が耳打ちした。 「中には入っているのは麻薬だ。俺達は都合よく運び屋をさせられているのさ」  と言って、そいつは冷蔵庫抱えて出て行った。  K氏は冷蔵庫を車に乗せ、高速を走らせたが、先刻の言葉が頭から離れない。 「もし本当なら警察に届けなければ……」  K氏は冷蔵庫の中を開いてしまった。しかし中は空だった。K氏は