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婚活に鰻は不向きか。

ふと、何てことないのにどう答えたらいいのか迷う質問がある。

「Q.好きな食べ物は?」

好きな食べ物自体は多いが、そういえば、突き抜けてこれが一等好き、というものがない。
というか、これは婚活パーティーの質問シート。どう答えるのが正解か。
桃とか葡萄とか、食材を聞いているのではない。

「好きな食べ物は?」というのは、実は好きな食べ物なんて聞いていない。

恐らく、好きな食べ物が共通していたらどこの何が美味しいか話し合えるし、もし次に食事でも、となったらこの質問の回答を出すお店になりえる。
つまり、話のネタ探し、およびどういった嗜好か匂わせ次につなげるパスだ。

ということが頭を駆け巡り、結局書いたのは、鰻重。
好物な上に今食べたいもの。そして寂れた老舗でしっぽり和風デートを好むような女であることも表しているはず。

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しかしその質問シートを見た男性たちは、一笑に付しておしまいか、一切触れないか。

ということを友人に話したら、婚活で鰻重なんて答える馬鹿がいるかと怒られた。
自分はお金がかかる飲兵衛の女だと言ってまわっているようなものだし、こういうのはラーメンやカレーなど二人で入りやすい敷居の低いものを書くか(正直インドカレーとどちらにしようか迷った……)、そうでなければ自分の得意料理を書くもんだ、だそうだ。

そうか……ピンキリだけど老舗の鰻屋さんに行けば軽くイタリアンのコースが食べられちゃうところもあるか……。
私はせいぜい頑張ってもちょっといい焼肉屋さんくらいのお値段のところだけど……。
しかも鰻屋さんで私そんなにお酒を求めない……。

ただ、住み慣れた地域によって鰻屋さんへのハードルの高さが変わるのはなんとなくイメージできる。東京は割と鰻屋さんが多く、下町の方なんてちょっと行けばそれほど敷居の高くない年季の入った鰻屋さんが何軒もある。今でも、何かあると家族で鰻を食べに行くなんて結構見かける。しかし日本海側で生まれ育った母は、上京するまで鰻を食べたことがなく、脂ぎっててくにょくにょしてて、知っている魚と全く異なり驚いたらしい。そんな母も今では「鰻はビタミンC以外揃った完全食なのよ!」と言って、次の日忙しくなりそうな時は精をつけようと特に率先して食べている。上司や仕事関係の人に鰻屋さんに連れていかれるなんてこともあったが、リモートワークが進めば自ずとそういう機会は減る。柴又や成田、佐原、浜松の方へ行ったら食事に鰻をチョイスするだろうが、コロナ禍では不要不急の外出は控えるよう言われている。仕方ないけど、コロナ禍で経験の幅を広げるチャンスが失われていくのは残念。

親しむかどうかは、価格の影響ももちろんある。今や鰻は養殖が盛んとはいえ、養殖するためのニホンウナギの稚魚の水揚げ量はガクンガクンと下がっており、それに伴い価格は高騰。鰻屋さんでも販売価格に転嫁せざるをえなくなっている。一方、日本の賃金水準は1990年以降ほぼ横ばいなのに対し、他の先進国は右肩上がりの傾向に。賃金の面では日本はほぼ成長しておらず、他の先進国から見ると日本はどんどん沈んでいっているようなもの。鰻の値段が上がり、日本の賃金がなかなか上がらない(むしろ先進国水準からすれば下がっている)ようであれば、鰻の価値は体感的には値段以上に上がっているといえよう。

『PRESIDENT Online』「うなぎ」はこのまま超高級品になってしまうのか 
https://president.jp/articles/-/13114
『MONOist』われわれは貧困化している!? 労働賃金減少は先進国で日本だけ 
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2103/29/news006.html

そんな希少価値の上がった鰻ではあるものの、今では夏の時期になればコンビニやファストフード店、スーパーなどを賑わせる。ちょっといいお値段だけど一年に一度の風物詩だし、と、手を伸ばそうと思えばすぐに手に入る環境が整っている。鰻の価値が上がっているのに、一年に一度清水の舞台から飛び降りる機会をそういった手軽なところに奪われては、鰻屋さんで食べたことがある人はもしかしたら少なくなっているのかもしれない。

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さて。
婚活パーティーでいいな、もう一度会ってみたいな、と思った人同士は、連絡先を交換。次に二人で会う機会を設けることになる流れになるだろう。そうすると、「好きな食べ物は?」の質問で答えた内容が効いてくる。この質問でどちらか、あるいは両人が回答したものが外食できるものであれば、それを食べに行こうとなることは想像に難くない。
では、鰻重と回答した女性と、焼肉と回答した女性、どちらを次の食事に誘いやすいだろうか。

全国のうなぎ料理店のタウンページ登録件数は2011年の段階で2,866件。
https://tpdb.jp/townpage/order?nid=TP01&gid=&scrid=TPDB_GI02
一方焼肉・ホルモン店は、2011年の段階で21,482件。
https://tpdb.jp/townpage/order?nid=TP01&gid=&scrid=TPDB_GE01
うなぎ料理店のざっと7.5倍はある。
仮に鰻と焼肉の一人あたりの予算が同じ価格帯だとしても、これだけ件数が異なれば場所を選ぶハードルの高さが変わる。焼肉店なら例えば二人が出やすいところや見て回るスポットを決めてからどの店にするか決められる。しかし鰻屋さんの場合は、鰻屋さんが場所選びの主軸となってしまうだろう。

それに、最初のデートといった失敗したくないケースでは、どちらかが一度は行ったことある店を選ぶことが多いだろう。行ったことがなくても、評価の高さを気にし、どんな様子の店か見に行って下準備をする人もいるはず(本気の人なら)。人格もバックグラウンドもあまりよく知らない人と一対一で会うとなると、なおさら自分の安心できる慣れたフィールドで勝負(?)したいと思うのも頷ける。鰻屋さんと焼肉店、どちらの方が手札に持っている数が多いだろうか。その女性のおすすめの店にしてもいいとは思うが、もしどちらかが食事代は男性が出すものと思っている場合は、なかなかその女性に店を決めてもらうのは難しい。

焼肉店では、まず飲み物、キムチなどの副菜、肉の順で出てくることが多い。焼肉店では焼くという作業がある上に炭やコンロの熱に浮かされ、また排煙の音や周囲の声に負けないようについつい声が大きくなり、盛り上がりやすい(ただ、肉の焼き方、注文の仕方、気の遣い方など、かなりチェックできる)。
一方鰻屋さんも大体出てくる順は、飲み物、つまみ、鰻重や蒲焼きになるだろうが、注文してから鰻を焼くところだと、鰻が出てくるまでに小一時間かかることがある。その間、お新香や骨せんべい、肝焼きなどをつまみにチビチビやりながら待つ。静かだ。その小一時間、好きになる可能性があるかもしれないまだ素性のよく知れない相手と二人きりで間がもつか。かなりのチャレンジかもしれない。でも、話し合い、互いのことを知る機会となりえる。

私は、そういう静かな時を楽しみ合える人がいい。
建物を愛で、設えを愛で、器を愛で、味を愛で。
そして、余白は余白として楽しみたい。

短い時間を楽しむデートと日常生活は別物。もちろん人によっては日常生活もずっと話して笑って何かしていたい人もいるだろう。でも、私は絶対に余白(しかもかなり広く)が必要。盛りだくさんな時も楽しいけど、その分フラットな時も欲しい。
その余白の時に、気まずさではなく余白を味わう余裕のある人(せめて、余白だと感じたらそっとしておいてくれる人)がいい。
ワイワイと焼肉で盛り上がるのも好きだけど、それが毎日続くと疲れる。たまにだから良い。
鰻屋さんは古民家のようなつくりの店構えのことが多く、家にいるようなリラックス感があるから、ここでいい時間を過ごせるなら、日常生活の相性もいいのではと思う。

加えて、予想していないことを相手が言っても面白がってくれる人や、どちらかが〇〇をしなくてはいけないと思い込んでいない人がいい。
鰻を食べたいと言い出したら、鰻?!とびっくりして引くのではなく、そういう季節なのかとか、ちょっと疲れているのかなとか大きな視野を持つと、見える部分があるはず。
食事を含むデート代は男が持たなければいけない、女は常に相手の飲み物などが切れたらどうするか聞く、頃合いを見てお酌するなど、先回りして男の身のまわりの世話をしてやらなければいけない、等決めつけてしまうのも、どちらかに負担がかかったり、力関係が歪になったりする一因になることもあるだろう。互いに立派な大人なら自分のことは自分ですればいいし、できる方がやる、できないなら頼む、でいいのでは。

と、まあ色々とこじつけて考えてみたけど、普通に、素直に、私は鰻重が好き。焼き鳥もカレーもラーメンも好きだけど、普段生きている中で特に大切にしたいごはんは鰻重。

婚活パーティーでは、まずもっとよく知りたいと思ってもらわないと、次に進めない。もしかしたら、多くの人にそう思われた方が、自分と相性の合う方を見つけやすいのかもしれない。そして、他の多くの女性と比較され一人あたりの話す時間が短いなら、ファーストインプレッションが重要になり、誤解されやすいことや選別から弾かれかねないことは控えるのが得策なのかもしれない。

でも、自分を偽って見せても、後々自分が苦しくなるだけ。

ええ、鰻重の問題ではなく、自分が面倒くさい人間なのは重々承知していますよ。

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※鰻が面倒くさい、敬遠されている、という話ではなく、婚活で鰻重が好きと答える女でもいいじゃない、という話です。

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