見出し画像

土地の恵みをいただく(身土不二)

 面白いことに、ギリシャ神話と日本神話には類似するエピソードがいくつかあります。その中でも特に私にとって印象深いのは、四季が生まれることになったデメテルとペルセポネの話と黄泉戸喫(よもつへぐい)の話です。

 豊穣の女神デメテルが溺愛する娘ペルセポネは、ある日ペルセポネを我がものにしようとする冥界の神ハデスにより冥界に連れ去られてしまう。デメテルは怒り悲しみのあまり木々や作物を実らせることをやめ姿を隠してしまい、地は荒廃。ペルセポネの父であるゼウスはペルセポネを帰すようはたらきかけ、ハデスはペルセポネを解放。しかしペルセポネは冥界のざくろを数粒食べていたため冥界の住人となっていた。そこで、食べた分だけペルセポネは冥界に戻ることに。
 つまり、ペルセポネは1年のうち2/3は地上で、1/3は冥界で過ごすことになり、ペルセポネが冥界に戻る時には母デメテルが地に実りをもたらすのをやめ冬に、ペルセポネが地上に戻る時には喜びが溢れ地は春になる。
 ということから四季が始まったというのがギリシャ神話での話。

 一方日本神話では、イザナギと共に日本の島々や神々を次々に生んでいったイザナミは、火の神カグツチを生む際に火傷を負い、黄泉の国へ行ってしまう。イザナミを連れ戻そうとしたイザナギが黄泉の国を訪れたところ、イザナミはすでに黄泉の国のものを食べており、黄泉の国の住人となっていた。黄泉の国の神に地上に帰れないか相談するからその間絶対に見てはいけないとイザナミに言われていたものの、イザナギが覗いてしまったところ、恐ろしい姿に変わり果てたイザナミの姿を目にし、イザナギとイザナミは完全決別することになる(生者の国と死者の国も分けられる)。
 これが黄泉戸喫の話。

 黄泉戸喫は共食信仰が基になっていると言われています。同じ火で作られた同じ食べ物を分かち合い仲間になる、あるいは神様に捧げた御神酒や御供物を分け合っていただき神と一体化する。同じ釜の飯を食う、という言葉もあるように、食事を共にすることで連帯感を生みだしていきました。
 古代ギリシャでも近隣の人々と親睦を深めるための集会、あるいは酒を酌み交わしながら語り合うシュンボシオンという風習がありました。

 ここからは私の考えになりますが、その土地で得た収穫物を食べるということは、その地の恵みをいただく、その地の恩恵をいただくということを通し、その地の守り神様との結びつき(縁)を得るということではないか、と思います。
 土地が育んだ野菜、土地が実らせた果実、土地で育った動物、……それら地の恵みを食べて生きるということは、地に生かさせてもらっていると言い換えられます。そして同じ地縁の人々と協力して食べ物を収穫し同じ食物を食べることによって人同士横の連携を強めていったように思います。

 一見同じ土に見えても、酸性・アルカリ性、火山からの降灰が堆積してできた土、元は海岸や海底だった砂地、落ちた葉や枝からできた肥沃な腐葉土など、その土地の歴史が色濃く反映されています。
 また、同じ性質の土に同じ種苗を植えても、当然気候が異なれば生長に差が生まれます。
 つまり、収穫できるのはその地の風土に適した作物だということです。

 季節にしてもそうです。春には冬の間に溜め込んだ老廃物をデトックスさせる蕗の薹やウドなど苦味のあるものが、夏には西瓜やトマトなど身体の熱を取り水分補給できるものが、秋には乾燥した身体を潤す梨が、冬には身体を温めるネギが収穫できます。

 なので、住む土地で収穫した旬のものを食べるということは、その地の風土に溶け込んで生きていくことであり、土地に合った生活になっていくのでしょう。

 ペルセポネもイザナミも、移った先の地のものを食べ、地との縁を結んでいました。今みたいに方々への移動が容易くない時代、一度できた地縁を絶つのは並大抵のことではなかったことでしょう。

 地産地消と言われて久しいですが、住む地の風土に適した旬のものを食べその地に沿った身体を作っていくことが自然のように思えます。これが身土不二ということでしょう。

 こういうことを考えるようになったのは、プランター栽培、特にラディッシュ(二十日大根)を育ててから。
根を張り、土の養分を吸収し、葉をぐんと伸ばして育とうとする姿、またラディッシュの葉をバリバリ音がしそうな勢いで頬張っていた青虫が大きくなり蛹になったのを見て(まだ羽化していません)、土が生命をはぐくみ、こうしてはぐくまれた生命の営みこそが豊かさなのかもしれないと思いました。
(プランターの土は買ってきたもので、厳密にはここの土地の作物とは言えませんが、少なくとも気候は適していたからすくすくと育ったと言えるかと。)

今日もありがたく、いただきます。

画像1

画像2


※参考URL(敬称略)
●デメテルとペルセポネ~四季の由来~
http://www015.upp.so-net.ne.jp/ayashi/greekmyth-episode-Persephone.html

●日本誕生神話 イザナギとイザナミ
第5章 黄泉の国(よみのくに)
http://www15.plala.or.jp/kojiki/izanagi_izanami_05.html

●黄泉戸喫
https://nihonsinwa.com/page/768.html

●全ては古事記の中に
6-(3).古事記とギリシャ神話の類似点一覧
http://kojiki.imawamukashi.com/06siryo/06greek.html

●食の専門家Blog(橋本直樹)
食の社会学 13 神人共食の思想
https://www.mealtime.jp/shokublog/naohashi/2018/11/post-254.html

●同
食の社会学 14 仲間と一緒に食べる共食の思想
https://www.mealtime.jp/shokublog/naohashi/2019/01/post-255.html

●図解 食の歴史(著: 高平鳴海、 愛甲えめたろう、 銅大、 草根胡丹、 天宮華蓮/新紀元社・刊)

●ワインの起源とワイン文化
http://www.italy-wine-jiten.com/his/wine_his.html

●ニチレイ ほほえみごはん
デトックスは春野菜で!冬に溜まりがちな老廃物の排出を助ける5つの食材
https://www.nichireifoods.co.jp/media/1510/

●マクロビオティックWeb
「身土不二」と「一物全体」
https://macrobioticweb.com/about/shindo.shtml


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?