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はじめてのリスニングパーティはほのかにTOEICの味がした件

気がつけば、たくさんの公式団体や個人によるウォッチパーティやリスニングパーティが行われるようになっていた。参加者がリアルタイムで対象作品を楽しみ、SNS上で感想などを共有するこれらのイベントは、ファン同士の良い交流に一役買っていると思う。

そんな人々の姿を、私はどこかうらやましいと思っていた。でも「けっこう時間とられるし」「みんなで分かち合うのは本当に楽しいのだろうか」などとついつい天邪鬼になってしまい、手を出すことはなかった。私はしばらく、その動きを遠巻きに眺めていた。

しかし、遂に心に緊急出動要請をかける事態が発生したのである。

ここで話の流れ上私事を挟むが、2022年の11月後半に私は新たな推しと出会った。韓国発グローバルなアイドルのBTS(防弾少年団)である。ちょうどメンバーが軍隊に行き始めるという、7人全員が揃わないこの時期にはまってしまったことがそもそも不思議なのだが、私が言及したいレア体験はそこではない。

その年の12月2日、BTSのリーダー、そしてメインラッパーであるRM(アールエム)さんがソロアルバム「indigo」を出した。全10曲、32分という古の音楽好きからすればコンパクトなアルバムだ。純粋なソロは2曲、残り8曲はコラボレーションで、エリカ・バドゥにパーク・アンダーソンなど大物すぎる人が関わっている。布陣の豪華さに眩暈がするほどだ。グローバル力すごい。

その数日後、宣伝活動の一環で彼自身がリスニングパーティを行うというツイートを見た。

それは聴きたい、さすがに。

こうして心の岩戸はあっさり開かれた。
ちょろい。ちょっとなんだったんですかね、今までの斜に構えた態度は。

(日本と韓国は時差がないのが最高)

リスニングパーティ当日は帰宅途中だったが、iphoneとイヤホンは常に持っているので参加条件は十分である。Stationheadなるものを立ち上げて聴けば良いのです。簡単、簡単。

リスニングパーティには音楽が必要。そこでSpotifyを連携させようと試みたのだが、見事に失敗。そういえば容量が足りなくてアプリを消したことを忘れていた。Apple musicも使えるのだが、こちらはパスワードを失念している。実に残念なうっかりさんだ。

このままじゃ憧れのリスニングパーティに参加できないよ! 聴けない。どうする自分!!

迷っている暇はなかった。刻一刻と時間は過ぎていくからだ。せっかくの機会を無駄にはしたくない。Stationhead自体は機能したので、もうそれだけを聴くことにした。それはすなわち「音楽を流さず本人の配信だけを聴く」ということだ。
本末転倒という四字熟語が頭を派手によぎる。しかし大事なのはRMさん本人だ。カレーで例えるならカレールーだ。具ありのルーなしより、具なしのルーありの方が良くないですか?(本当は良くない)。

こうして、曲が一切かからないリスニングパーティの狂宴が幕を開けた。

おっ、RMさんが英語(もしかして韓国語かもしれない……自信がない)で何かを言っている。しかししゃべるパートが短いし、流暢すぎてわからない。もう1回繰り返してほしいのだが、無情にも静寂が訪れた。

そしてそのsilentな時間が実に実に長い。

考えてみれば当たり前で、本来はここは曲を楽しむところなのだ。数分間静けさがあって当たり前。いや、しかし本当に何の音もしないな。放送事故をじっくり味わう事態にさすがに目の前が暗くなりかけた。

長い長い数分が経って、また彼が何かを話す。いい声だ。だから聴けるだけでいいんだけど、短い。相変わらず何を言っているのかがわからない。

そしてまた空白の時間。
このサイクルを繰り返していくうちに、なんだか懐かしい記憶が呼び起こされた。

ああこれ、TOEICのリスニングテストに似てるんだ。

問題を必死に聴き取ろうとしてわからなくて、でも無情に時は過ぎていくあれだ。そういえば、確かRMさんはTOEICのリスニングがほぼ満点というすごい人であった。そういえば国連総会でスピーチもしていた。いや本当、これはパーティじゃなくてテストなんじゃない?

私は試されているのかもしれない。この時間を有意義に楽しめるかどうか。そういう風に気持ちを無理やり持っていったら、この時間がだんだん楽しくなってきた。そう、これはRM先生による試験の時間なのだ。

とはいえ、彼の言葉をまともに聴き取れることはなかった。唯一わかったのは「みんなどこの国から参加してるの?」みたいな一言だけだ。そしてその瞬間、光速のコメントがぶわわわわっと流れていく。どんなに動体視力が発達した人でも追いきれないおびただしい量だ。おそらく各大陸や島からたくさんの人が参加していたに違いない。それはとてもすごいことだった。この瞬間だけはすごくリスニングパーティらしかった。音楽はないが。

その後も沈黙→短いひとことのサイクルは続く。だんだんこの静かな時間を無為に過ごすのが勿体ないと思うようになってきたので、少しでも有意義なことをすることにした。本当はTOEICに倣って英語の問題でも解けば完璧だったのだが、あいにくそのようなものは持ち合わせてなかったので、しばらく放置していたお金の計算をすることにした。

数分間の静寂の間、計算はすこぶるはかどった。彼が話し始める前に終わらせたいという、いい意味での緊張感があったからかもしれない。
この繰り返しである種心がととのい、無事計算を終わらせることに成功した。ありがとうRMさん。

そうして、長きにわたって開催された音楽なしのリスニングパーティは無事終焉を迎えたのだった。今でも「本当にあの時間はなんだったのか……」と思うことしきりだ。でも成果はあったので良かったと思う。本人の声は聴けたし、結果オーライ。たぶん。

あのリスニングパーティから1か月以上が経過したが、私はよく「indigo」を聴いている。ほぼ日indigoと言っても差し支えないレベルだ。お世辞ではなく良いアルバムであり、心癒される時間を過ごしている。

この記事を読んで興味を持ってもらえれば、自分の失態も浮かばれるので、ぜひ聴いてみてください。できれば初めから順番に、飛ばさずにお願いしますね。


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