初台で、二十億光年の孤独を味わおう
東京・初台にある私語厳禁のお店
「フヅクエ」。
数年前のある夜、空腹状態で訪れた。
席に着いて定食を頼み、本を選ぶ。
店内はとても静かだ。
先客は、カウンターで熱心に本を読んでいる人が一人だけ。
あとは店主だけしかいない。
私は林伸次さんの本を読みながら、ごはんが来るを待つ。
扉が開き、お客が三人入ってきた。
店長は彼らに近づき、ニ、三の言葉を交わした。その後、彼らは帰っていった。
どうやら、おしゃべりできない空間だから帰したようだ。
本を読みながら思う。
なんたるストイックさ!
三人もお客さんが入ったらそれなりの利益になるはずなのに、店のルールのために入店を許可しなかった。
潔すぎるだろう。自分だったら招き入れてしまいたくなる、きっと。
その後も人は来ることはなく、店内は店主と一人客と自分だけだった。
環境音楽みたいなBGMが、静かに薄く流れている。だんだんと、沈黙が自分のからだを満たしていくのがわかった。
このままずっといたら、もしかすると日本語を忘れてしまうかもしれない。そんなことさえ思った。
谷川俊太郎さんが言う二十億光年の孤独って、こんなものだったりして。
ごはんを食べ終わって、店を出るといつもの日常風景だった。夜風が涼しかった。
なんだか、誰かと無性に話したくなった。
それはけっこう珍しいことで、新鮮な感覚だった。
やっぱり人は孤独すぎる状態を維持するのは難しいのかもしれない。
あの時以外、フヅクエを訪れていないのだけれど、またそのうち雰囲気を味わいに行きたい。
すごく集中したい人や、一人になりたい人におすすめ。ごはんも美味しかった。近所にあってほしいお店である。
いただいたサポートで他の人をおすすめしていきます🍒