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1時間という絶妙で贅沢なギフト、冬のYOASOBI(1st Live 『KEEP OUT THEATER』ライブレポート)

2021年2月14日の18時を少し過ぎたころ。画面に映っていた「KEEP OUT」のネオンがふっと消えた。

それがライブの始まりだった。「小説を音楽にするユニット」YOASOBIの初オンラインライブ『KEEP OUT THEATER』。暗い闇に光る都会のどこかで、メンバーたちが動き出す映像を目で追っていく。

中空にある工事現場は当然、立ち入り禁止の場所。秘密の遊び場としては最適だ。

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ボーカルのikuraさんが最初の一声を発するのを待つ。各地にいる、見えないけれど存在するたくさんのファンと同じように。きっと心持ちも生き方も違うけれど、YOASOBIに関心があるということだけは共通するひとたち。たぶん、それだけで十分。

やがて空気を震わせて聴こえる澄んだ音と言葉があった。

「夜の空を飾る綺麗な花」

ここから先は、戻れない。進むだけ。

1.「あの夢をなぞって」

彼らの2作目にあたる作品。出だしはゆっくりと静かに、そして階段を駆け上るようにアップテンポになっていく王道の曲。コールのまぼろしが聞こえてきそうなほど、テンションが上がった。

2.「ハルジオン」

続いては、気持ちいいほどメロディーが身に染みる「ハルジオン」。心にはもちろん、体にもいい気がする。歌詞は切ないけれど。

聞いているうちにikuraさんが今年の成人の日に出演していたラジオのことを思い出した。その時「日本語の落とし込みに気を使っている」という話が出ていたが、YOASOBIののど越しの良さはそこにもあるのかもしれない。

3. MC1

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自らスプレー染めをした白いMA-1に身を包んだAyaseさんとikuraさん。なんと、この1時間限りのライブに半年をかけたそう。そして、彼らがいる謎めいたライブ会場は再開発中の「新宿ミラノ座」の跡地(8階)だと明かされる。1時間のために使われた膨大な時に驚き、建築現場をステージにするためのあれこれを成し遂げた人たちに心で拍手を送る。それくらいしかできない。

4.「たぶん」

やるせない感情がしみしみと伝わる1曲。「悪いのは誰だ」と気がつくと口ずさんでしまう。最後の「少し冷えた朝だ」、指を鳴らして終わらせるのは良い意味でずるい。

5.「ハルカ」

イントロの音がなんとも愛らしい「ハルカ」。2番の「訪れた春は」のところで一瞬不協和音っぽくなるところが面白く、耳を惹きつける違和感を作るのがAyaseさんはうまい。照明もやわらかで、陽だまりが恋しくなる演出。

6. MC2

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「ハルカ」つながりで乾杯。彼らのマグカップもきっとライブに聴き入っていたに違いない。飲み物は緑茶だったり、コーヒーだったりと様々。配信の乾杯のいいところは、みんなが思い思いのものを選べて、でも一瞬楽しくなれるところかもしれない。

7.「怪物」

アニメ「BEASTERS」第2期のテーマソングでもある「怪物」。ライブでの「ああ」はより獣らしく荒々しく表現されていた。不穏さと疾走感と矛盾と痛みと優しさがつまっていて、好きな曲だ。「教えてくれよ」という歌詞の切実さがこんなにも心に迫る夜はなかなかない。でも誰も教えてくれないから、明日も進む。

8. Epilogue~「アンコール」

ライブだと「アンコール」の歌い出しにエフェクトがかからなくて、そこが特別感あふれるものになっていた。「ありふれた」という単語がこれほど印象的に聴こえる歌も珍しい気がする。ぐるんぐるん廻るピアノの音も盛り上がり、そろそろ現実に戻らなくてはいけない予感も高まる。

9. MC3

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バンドメンバーの紹介が始まると、いつもしんみりとしてしまう。これは本格的に終わりだとわかってしまうから。でも、まだあの曲が歌われていない。最後にショートケーキのいちごを取っておいた時の気分にも似ている。

10.「夜に駆ける」

ライブには「絶対にこの歌を聴くまでは帰れません」という歌がある。「夜に駆ける」はそのひとつであり、多くの人がYOASOBIを知るきっかけになった曲でもあるだろう。私もこの曲の「FIRST TAKE」版で知ったひとりである。

このライブも工事現場も終わるし、何もかもいつかはなくなる。それを知るからこそ、すこし寒い冬の夜のこの1時間は貴重でかけがえがない。頭の中で映像が再生されるときに、ふさわしいドラマティックさを備えた曲だ。

11.「群青」

ラストはマンガ「ブルーピリオド」のイメージソングでもある「群青」だった。好きなものに向き合い続けて、ステージに立つ人たちが作った一曲の強度はものすごい。そういえば、YOASOBIもまだ序章のうちなのだと思う。紅白などの展開が怒涛すぎて気が付きにくいが、たぶんそう。

「大丈夫、行こう、あとは楽しむだけだ」

これは彼ら自身に贈るエールでもあるのだろう。

12.エンディング

どんな作品でもエンディングクレジットを見たい性質である。この完璧に近いライブを作り上げたのは、舞台上の6人だけではないとなんとなくはわかるから。所属レーベルの人、マネージャー、映像を撮る人、ヘアメイクやスタイリスト、数々の契約を結ぶ人、機材を準備する人、安全を確保する人……他にもたくさんの人が働かなければできなかったのだと思う。

そのクレジットを粋な形で見せてくれるYOASOBIが最高でした。


カツセマサヒコさんのレポートを見ると、舞台の裏側が想像しやすいです。

13.終わりに

ほぼきっちり1時間、アンコールもなし。再放送も21時から。健全で安全なYOASOBIのライブは今に寄り添ったものになっていて、それがとても好ましく感じました。次の日、会社で流れるラジオからYOASOBIがかかるたび、マスクの中で歌いそうになるのを必死でこらえたのも良い思い出。本当に素敵な音楽の贈り物でした。ああ、次のステージが楽しみ。

※ライブの写真は公式Twitterからお借りしました。ありがとうございます!



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