#26 「算数文章題が解けない子どもたち」を読んだはなし
算数の文章問題、その壁は大きい。
算数の文章問題を解くためには、①問題の意味を理解し、②式を正確に立て、③計算をミスせずにおこない、④計算で出た答えを解答欄に書き写し、⑤聞かれている単位も忘れずに書く…という工程が必要。
よく「文章問題ができない=文章の読解力がない」と言われる。でもそんなシンプルなことじゃない気がしていた。
今回、何気なく手に取ったこちらの「算数文章題が解けない子どもたち」という本。
大学教授の先生たちによる論文形式な本。そしてあくまで開発したテストに関する内容がメインなので、教育メソッド本のように読みやすいわけではない。でも、そういうことか!と何度か思わせられる部分があったのでnoteに残しておこうと思う。
この本、著者のグループが小学生の基礎となる能力を測ることができ、学力不振の原因を明らかにすることができるアセスメントバッデリー(テスト)の開発を教育委員会から委託され、「子どもがつまづいている原因がわかる」テストを開発した。その設問がどういう意図なのか、テスト結果と学力がどう関係しているのか、小学生の学力の基盤と学習のつまづきについての分析結果だったりが掲載されている。
勉強が"できる"ということの大前提とは?
◼️勉強したことが「生きた知識」になっているか。
→必要なときにすぐに思い出すことができるようになっているか?使い続けることで「生きた知識」になるということが重要。
◼️生きた知識を使うために必要な認知能力5つ
①実行機能
→必要な情報にのみ注意を向け、不必要な情報への注意を抑制したり、指示に応じて注意を柔軟にシフトさせたりする能力。文章題のなかから必要な情報だけをピックアップするのもこの能力。出た答えが常識的なものなのか(体重とは思えない桁、年齢とは思えない数字など)を判断するのもこの能力。
②作業記憶能力
→短期記憶では、情報をただ貯めておくだけではなく、その情報を使って、すでに長期記憶にある知識と照らし合わせたり統合したりして、心の中で計算をしたり、操作をしたりする。どれだけ多くの情報を一度にバッファに取り込み、どこまで複雑な操作ができるかには個人差があり、この個人差はある程度学力と相関があると報告されている。
③視点変更能力(他者視点取得能力)
→抽象的な概念の理解に、文脈に応じて視点を変更できる能力が不可欠。この能力は他社の視点をとることができる能力や相対的にものごとを捉えることができる能力と不可分である。視点変更能力は、学力の前提となる基礎能力の中で必須であるが、子どもが身につけるのにとても苦労する力である。
④推論能力
→教えられた情報が学び手のなかで「知識」になるかどうかは推論にかかっているといっても過言ではない。教えられた概念を別の状況で使えことができるためには、推論によって点を面に広げなければいけない。推論ができないと、与えられた例とほぼ同じ状況でしかその概念を問題解決に使えない。⑤メタ認知能力
→批判的思考ををするための中核になるのがメタ認知。これは自分をちょっと離れたところから俯瞰的に眺め、自分の知識の状態や行動を客観的に認知する能力のこと。
算数ができない子の間違いパターン
◼️スキーマ=思い込み
人は、自分の経験を拡張し、一般化して知識の枠組みをつくる。これまでの生活や学習経験のなかでつちかってきた枠組みとなる知識のことを認知心理学では「スキーマ」とよぶ。人は自分の持つスキーマに沿って、特定の情報に注意を向け、その情報を取り入れる。取り入れられた情報はスキーマにそう形で記憶される。スキーマに合わない情報はいくら親切丁寧に教えられても、素通りしてしまうか、自分のスキーマに合うように捻じ曲げられてしまう。
◼️文章題回答の中にあるスキーマ
①問題文の中にある数字は全部使わなければいけないというスキーマ。
→単位がバラバラなものを問題文の中からそのままもってきて計算してしまったり、30%増量したら何g?という問題の1.3倍の1の部分をもってくることができない。子どもは文章に書かれていない数字を常識で補って推論することがとても苦手。
②足し算・掛け算が「答えの数を大きくする」計算、引き算・割り算が「答えの数を小さくする」計算というスキーマ。
→問題の内容をよく考えずに、答えが大きくなるものは足し算か掛け算。小さくなるものは引き算か割り算、、という選択をしている。
③数についてのスキーマが脆弱
→5時間10分を510分に変換してみたり、140分を1時間40分にする。繰り下がりを回避するために、1の位と10の数を勝手に入れ替えてしまう。(86-48を、86-84で計算) 3.6を分数にするのに、3/6や6/3にする。
単位を理解していないのと同時に、その数字が「どういう数」なのかを考えるということができない。
④数字はモノを数えるために使うものというスキーマ。
→「1」にはものを数えるときに1個ある、という意味で「イチ」を使う場合と、任意のモノの量を「1」として、それを分割したり、比較の基準にしたりするという意味の「イチ」がある。子どもは乳幼児期から個体のモノを数えるために数の言葉を覚えるので、数のこどばはモノの数のことだという誤ったスキーマを持っている。このスキーマを修正しない限り、「基準としてのイチ」の意味を理解できない。「基準としてのイチ」を理解しないかぎり、少数・分数の概念を本質的に理解することはできないのである。
個人的な感想
算数のテストが返ってきた時、私はただの「間違い」だと思いがちで、計算ミスやら理解不足やら読み間違えのせいだと思っていたんだけど、そこには複雑にいろんなスキーマが絡み合った要因があってのバツだったんだと思う。うちの子は、文章題が長くなれば長くなるほど、正解率が低くなる。文章の中から必要な情報をピックアップする方法が弱い。そして多分、文中の数字を使わなければいけないと思い込んでいるところがある。。
大人にとっては当然でしょ、と思っていたことが、子どもにとってはそうではなく。社会経験が少ないがゆえに凝り固まった子どものスキーマという部分を一緒に修正していくきっかけになる本だなと思った。
欲を言えば、分析結果がほとんどで、そこからの考察(というか、私たち親がどうすればいいのかというところ)はあまりないので、(本の中でも現時点ではそこまでは言及できない的なことを言っていたので)次回作以降に期待したい。
何はともあれ、認知科学、認知心理学、発達心理学が専門の今井むつみさんの研究内容は面白そうなので他も読んでみようと思った。
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