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有事の際にできること

実は、今朝バスで通勤をしていた際に、バスから下車しようと立ち上がったおばあさんが転倒して頭を打って出血するという状況に遭遇した体験から感じたことを記憶がどんどん薄れていく前に整理しておきたいと思います。

事件は突然に

今朝バスに乗って通勤をしていたときのことでした。バスの冷房の涼しさを感じつつ読書をしていると女性の叫び声と鈍いゴンッという音が響きました。声のする方をみてみるとおばあさんが仰向けになって転んでいました。

バスの運転手さんがバスを停車させるとおばあさんは起き上がってバスを降りようとしています。心配した運転手さんが声をかけると大丈夫、大丈夫と降りようとしています。降りようとするおばあさんをよくよくみてみると、頭から血を流しているではないですか!

運転手さんは、おばあさんを引き留めバスの座席に座らせると電話をとってどこかに連絡を取り始めます。バスの車内では乗客がざわざわし始め、私も大丈夫かなと遠巻きにその様子を眺めていました。

そのとき自分の中では、「出て行って少しでも助けられることをしようか」と思う気持ちと、「運転手さんも対応しているし大丈夫なんじゃないかな」と思う気持ちとの間で揺れ動いていました。そんな気持ちが揺らいでいる中で、ふと鞄の中をみてみると業務で使っている『聴診器』が見えました。

そのとき、揺れ動いていた気持ちを奮い立たせ聴診器と血圧計をもってお婆さんのところに駆け寄りました。すぐさまおばあさんに声をかけつつ震える手でパルスオキシメーターを使って酸素飽和度と脈拍を測定し、頭の痛みの状況を確認しました。

頭からはポタポタと血が垂れてきて、なかなか出血が止まりません。とっさに何か飲んでいる薬があるんじゃないかと思い、おばあさんに「なんか飲んでる薬はある?お薬手帳持ってる?」と聞くと、ちょうど病院に行くためにバスに乗っていたようでカバンからお薬手帳を出してくれました。

お薬手帳をみると、「バイアスピリン」を服用していることがわかり、この人はもともと血が止まりにくい状態だということがわかりました。薬の状況から患者さんの状態がみえてきたことで少し気持ちが落ち着いて、状況が見えるようになってきました。

そうこうしているうちに、救急車のサイレンが聞こえてきて、とても安心した気持ちになりました。即座に駆けつけてくれる救急隊の方々に感謝の気持ちでいっぱいになりつつ、把握した状況を共有しました。救急隊の方々はとても冷静にこちらに声をかけつつ、おばあさんの状態を確認して救急処置を行い搬送をしてくれました。

今回のことから気づいたこと

今回の緊急事態に自分がやったことは、以下のことでした。
・バイタルサインの測定
・服用薬の把握と薬の影響のアセスメント
・状況を確認するための聞き取り

これらのことは、日々の業務の中でずっとやっていることで、平時の時にやっていることしか、有事の時には発揮できないだなということを思いました。

薬剤師にとって薬がわかるってことはこんなに大切なことなんだということを実感しました。今まで頭から血を流すおばあさんだったのが、薬がわかった瞬間いろんな患者さんの状態が頭でつながって整理されていき、自分の中で患者さんの状態がクリアに見えてきてどんどん安心感が高まっていきました。
そしてそんな安心感を、1冊のお薬手帳が教えてくれることにも今回感激し、改めてお薬手帳の重要性も実感することができました。

今回駆けつけられたのは?

そして、若干自分の中で葛藤しながらも、おばあさんのもとに駆けつけられたのはなんなのか?ということも振り返ります。

これは、決して医療者としての責任感とか、奉仕の心とかそんな崇高なものではないことを私は知っています。
というのも、つい2ヶ月ほど前にも今回のような事態に遭遇することがあったのです。その時は、心肺停止で倒れている女性でした。私は色々と自分の中で駆けつけない理由を考えてその場から立ち去りました。

そのとき、その場を立ち去った自分がとても情けなくて、悔しくて、患者さんのために薬剤師として仕事をしたいといつも言っておきながら、結局逃げ出してしまうのかととても残念な気持ちになりました。
その時のことは忘れないようにメモに書き残しています。

ある土曜日の通勤途中、駅でちょうど乗れた普通電車に乗りながら、携帯で漫画を読みながら出勤していた。8時30分ごろ加古川駅に到着し、漫画のクライマックスを読みながら読み終えたら、仕事モードに切り替えて出勤しようと歩きスマホで漫画を読みつつ改札へ向かった。改札を出ると柱の向こうで2名の駅員さんが慌てていた。駅員さんの足元には、乱雑に転がる自転車。駅員さんはもう1人の人にAEDを持ってくるように指示していた。
この光景をみて、誰か人が倒れたんだ、事故かな?と思いながら、頭の中で、機材ももってない、救急救命の知識や技術もない自分がその場にいってできることはないだろう。駅員さんがAEDを手配して緊急対応をしているし、きっと大丈夫だろう。仕事にも行かないといけないしここに留まっている場合でもないだろう。などと考え、その場を立ち去った。
その後、本当にこれでよかったのか?、自分にできることは何もないのか?出勤時間は迫っているか?といろいろ考え、駅に戻った。
駅に戻ると駅員さんと一緒に若い男性3人が駅員さんと一緒に救助に当たっていた。状況判断をして指示を出す人と、AEDの使用や心臓マッサージ、気道確保など適切な対応を行う人、僕が行った時には今度こそ十分な対応ができるよう状態にあった。僕はその状況を見て再びその場から立ち去った。

この時の体験から、こんな状況に遭遇しても逃げ出さないようにするため(逃げ出す理由を1つでもなくすため)に、鞄の中に常に聴診器と血圧計を入れておくようしたのです。

前回緊急事態に遭遇した際に、たどり着けなかったあるべき姿にたどり着くために、原因を整理し対策を実行していた。だから今回は逃げずに駆けつけることができました。問題解決も平時の業務の中で常にやり続けていることが、有事の際にも力を発揮することに結びついていると感じました。

最後に

有事の際に発揮されることは、平時の際に全力で取り組んでいたことがそのまま出てくるものなんだということを体感しました。平時の際にいかに取り組むか当たり前だけどやっぱりここが一番大切なのかもしれないなと思わせてくれる出来事でした。


最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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