【アパレル業界の話⑨】声かけ不要バッグ
聞いたことあるでしょうか?
「声かけ不要バッグ」
セレクトショップのアーバンリサーチが2017年に試験的に全国23店舗に「声掛け不要」バッグを導入しました。店頭に置いた青い透明の手提げバッグを持った客には、声をかけない仕組みのもの。
しかし、スタート当初はアンケートで約8割の人が賛成だったにもかかわらず、実際はそれを使用するお客様は少なかったようです。なにかしら、店内でそれを持ち歩く気持ちにならない人が多かったのでしょう。
個人的には、わざわざ持ち歩くのは面倒である上、買わずにバッグを戻す行為が気まずいこと、さらにバッグで声かけないでという意思表示すること自体が露骨すぎだという心理がはたらいた結果だと思っています。
声かけ不要バッグが生まれた背景には、いきなり深いコミュニケーションを取ろうとする接客や触った瞬間の商品説明などに強い抵抗感を感じる消費者が多いという実態があります。確かに私のまわりでも「なぜゆっくりみせてくれないのか。興味があるので少し見てみたいという気持ちを分かってほしい。」と考えている人は多いです。
アパレル業界において、販売員の仕事はなんと言っても売上を獲得することです。しかし、お客様の心理を見極めることができる接客技術を持ち合わせている人は一部にすぎません。よって、それ以外の平均レベルの販売員は、仕事に取り組む姿勢が真面目な人ほど場数を踏むべく、入店してきたお客様へアタックするようないきなりの声かけや接客をやってしまいがちです。
売上を獲得するためには、どんどん声かけをしていくことがアパレル業界の基本となっていたのは間違いありません。そもそも、アパレル業界における具体的な評価基準として覆面調査やロールプレイングがありますが、それはタイミングのよい声かけから消費者の感情を揺さぶって衝動買いにつながる技術を身につけることを目的としたものです。レベルの違いあれどテンションを上げて声かけをすることが仕事の一環なのです。
コロナ禍をきっかけにアパレル業界が今まで行ってきたサービスが本当に消費者の気持ちに寄り添ったものであったかが問われていると思います。今後の接客サービスとはどのようなものが理想なのか、各企業は今一度再考すべきであるのは言うまでもありません。
個人的には、実店舗で売上を上げることが第一であるという考え自体が様々問題を産む原因だと感じています。もう少し消費者の本音に向き合う必要があるのではないでしょうか。
まったく当たり前ですが、自分の外見を気にしないという人は少ないハズです。
「実は、洋服を見たり着たりすることは好きで、買わないといけないプレッシャーがなければ、店にある洋服を着たらどうなるのかたくさん試してみたい。」
アパレル業界は、そんな本音が聞こえていないのでしょうか?
話しは簡単です。実店舗は、消費者が販売員と相談しながら存分に商品を見たり着たりできるエンターテイメントな場所になればいいのです。
その後、購入するかどうかはじっくり考えてネットで手続きする仕組みであれば、消費者は洋服を衝動的に買うのではなく理性的に買うことができます。
声かけをしないとかするとかではなく「手にとる」「試着する」といった行為におよんだら買わないと気まずいというプレッシャーを取り除くことが大事なのです。
そのようなサービスやビジネスモデルですら業界はいまだに構築できていないのは残念でなりません。一部にはそれをはじめている企業はありますが・・・。
もしかしたら、今後のアパレル業界の存在価値は、実店舗のエンターテイメント性にあるような気がしてならない今日この頃です。
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