【ネタバレ】すずめの戸締まり感想(酷評)
太古より、新海作品を酷評することでアクセスを稼いできた私は、その成功体験から逃れられない哀れな承認欲求の奴隷なので、今回も書く。
(いつも通りで)モチーフは面白いが活かせておらず、全体的に大味
本作は、新海作品の中でも一番まとまりがないと感じた。
「地震ネタ」「叔母との関係」「ロードムービー、土地の人の交流」「恋愛」これらが軸となっていると思うが、各要素が全く響き合いがなく、ただただ尺は食い合っていて漫然としている。
大筋はいつもと同じ。それはまあそう思ってみんな観に行ってるだろうし、新海誠氏自身も開き直っているのであろうと思う。
これは想像に過ぎないが「モチーフ」「最後の救出シーンのバリエーションをどうするか」「今回は大当たり変動(恋愛成就)かハズレ変動(悲恋)か」を先に考えるのではないだろうか。
この反復により、どんどんネタが苦しくなっていくため、劇中の状況が作品を重ねるたびにややこしくなっていく。
新海誠という人はモチーフ選びは大変うまくいが、毎度その後は投げっぱなしになるのだが、特に今回は「戸締まり」というモチーフがもう完全に「モチーフのためのモチーフ」となっており、全く劇中で寓意として機能していない。
「緊急地震速報のときに自分だけ地震の元が見える」という切り口は面白いと思うが、扉から触手が出てきて上から叩く?と地震が起こるというのがそもそもピンとこないと言うか扉モチーフの都合にしか見えない。
ある程度の地震を体験みればわかると思うが明らかにしたから突き上げられるわけで、扉と地震というモチーフが全く噛み合っていない。
また今回はロードムービー仕立て…というよりRPGの「お使い」のようになってしまっており、いつもの得意な生活描写で押せず、全体的に拙さが全面に出て、かなり単調な構成と感じる。
アクションも追いかけっこ一辺倒となってしまっており、単調さに拍車をかけている。
構成という意味では過去作より後退しているのではないかとすら感じる。
ファンタジー要素とキャラ描写が薄い
君の名はのヒット以降SFから徐々にファンタジーにシフトしてきているが、扉の向こうはただの平原でありファンタジー的魅力が皆無。
おそらく「星を追う子ども」の反省で現代要素を強めにしたのだと思うが、それはマイナスを薄めているだけで抜本的には解決していない。
草太が椅子になるところも、活躍させないための都合にしかなっておらず寓意性が皆無。足が一本欠けているのとかもほぼ機能していない。母親が作ったというよくわからない紐付けがされるが全くピンとこない。
また「みみず」のビジュアルがいかにもタタリ神であり、新鮮味がない。
(そもそもミミズは本来、土壌を良くしてくれる益虫だ)
ゼロからイメージを組み立てるのは本当に苦手なのだろうと思う。
また逃避行しているため全体的通して陰鬱なムードが一貫しているのは、あまりターゲット層とマッチングしてないのではないかと思った。
あとちょこちょこ草太が椅子になってすずめに抱きしめられたり座られたり踏まれたりするのは、草太があまりにも無味で感情移入できないため、どういう気持ちで見れば良いのかわからない。
毎回エロに抵触するようになるとサーキットブレイカーのようなものを仕込むよね。前作の弟とか。
そもそも同じ筋立てで男女逆転して成立させようとして(しかも叔母のエピソードも織り込む)草太というキャラがものすごく割りを食ってふんわり描かれてるので、全く恋愛に説得性がなく全体として物語に牽引力がない。
草太もすずめもお互い問題を補い合わないと恋愛物にならんだろ…。
サンプリングアピールが鼻につく
「星を追う子ども」でキツネリスが出てきたときも劇場で吹き出してしまったが、今回もちょこちょこあるわけだが、サンプリングですよ!っていうアピールが新海作品の中でもひときわ凄くて「ルージュの伝言」を唐突に流すところはうわぁあ!!となってしまった。しかもご丁寧に「猫もいるし」みたいな言い訳ゼリフを言う!なんのためにそんなことをするんだろう…。誰が得するの?もしかして面白いと思ってる?
「震災」の扱いについて
新海誠作品は近作隕石、水害と毎回災害を扱っている。批判的に語るのなら「都合よく」扱っていると言っていいだろう。
そして今作はいよいよ震災全面に押し出してきた。
しかも神戸→東京→東北とかあからさまなルートを劇中めぐっていく丁重さだ。
まず、言うまでもないことだが天災というのは「誰も悪くない」というところが残酷であり天災である所以なわけで、誰かの犠牲で収められてトロッコ問題になってしまうとそれは「天災」ではない。
(というかもしかして最近のフィクション「トロッコ問題=深い」と思ってるんじゃないだろうか?)
その後母親の死は東北大震災によるものだったことが明かされるが、ここまで散々戸締まりして地震を止めるという行為を劇中で反復してきたのだから「東北大震災も阪神大震災も防げたんじゃね?」って当然なるだろ?
これを出すのは反則かもしれないが私は阪神大震災を被災者なのだが、当然地震は恐ろしいし悲しい事をたくさん起こすが地震を憎むというようにはならない。
そもそも地震はこの地球の活動の一部で、表面に住み着いてる我々人間には少々都合が悪いけど必要なものであって「異世界からの悪しき力」ではないわけじゃん。マントル対流しなくなって良いのかよ。
「扉の向こうが死後の世界」だという事だそうだから「死後の世界から死が飛び出してきて地震を起こしてる」ってことになる。
それはあまりにも世界の受け止め方として歪ではないだろうか?
あとまあこれは半ば言いがかりだが、ラスト被災のイメージが完全に津波のそれであり、直下型地震でる阪神大震災の風景はぜんぜん違うわけで「じゃあわざわざ神戸とか通るんじゃねえよ」と思いましたね。
「地震をおさめる」というある意味手垢のついた題材をドヤ顔で今持ってくる意図がわからない。
見慣れた六甲山から見下ろした神戸の夜景に、あーミミズが落ちそう!「また」地震が起きちゃうー!すずめ止めてーー!!…ってなると思います?
本人には純粋な悼む気持ちがあるのかもしれないが、結局は美談のための段取り、苦難として持ってこられているだけに見える。
それは、あのときズカズカと神戸に乗り込んできてカメラを向けたマスコミたちと、根本は違わないのではないだろうか?
他箇条書き
・なんですずめだけ標準語なんですかね?東北弁ならまあまだ意図はわかるし、全員標準語ならそれはそれでいいが。
・ダイジンが良いやつだったというのは、さすがにご都合主義としか思えない。
・草太の友人(セリザワ)も草太が好きだという事かな、三角関係になったらそこは面白いなと思ったがそんなことはなかった。
・叔母が急にギスる要素なんだったん?恋愛関係と無関係に解決するのが凄い。それやるならおばさんもお姉ちゃん(母)が大好きだったって描写いるでしょ?
・最後に取ってつけたように追加されるタイムリープネタ、回想で母親と思っていたのは自分だった、ということかなるほどと思ったらそんな事なかった。
・地震の歪みで開けられなくなって閉じ込められないように地震時扉を開けておいたほうが良いという話があるが(経験的にはそもそも立てないけど)それにかけてくるのかなーと思ったがそんなことはなかった
・ラストをいつもの再開できるか?アオリに持っていくために、一旦別れるの笑ってしまった。
・入場プレゼントの「新海誠本」を今ざっと目を通したが、予防線貼りすぎでしょ…。
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