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本当に欲しいもの


ユーザーファーストで考えよう、と言う。
お客様のニーズにお答えして、などと言う。

けれど、「何」が欲しいかを自分で明確にわかっている人なんて、実はいないんじゃないかと思う。

今、友人のためにWebサイトを作っている。

やりたいことを仕事にして独立しようとしている彼女は、こんなサイトにしたいという案を手書きで持ってきてくれた。

サイトの雰囲気やキャッチコピー、ページ構成など、熱がこもっている。こちらも期待に応えたいとあれこれ考えて口を出す。

「何」を伝えたいの?
「何」をしてあげたいの?
ユーザーは「何」を求めてサイトにやってくるのかな?

そんなやりとりを続けているうちに、彼女の表情が曇っていく。
「何」が正解か、わからなくなっていく。

彼女の素晴らしさは充分理解しているはずなのに、どうしたものか。



ふと、彼女が『あの雑誌が好き』と言っていたことを思い出した。

そうか、もしかして。

私は彼女の好きなものリストを引っ張り出して読み返した。
1年前、まだ私たちが知り合って間もない頃にお互いを知るために書き合った、「私の好きなもの」。

好きなブランド、好きなこと、憧れの存在、、、ぼやけていた彼女の輪郭がくっきり見えてきた。


そこから私は最初の画面イメージを作った。

本当はこんな雰囲気にしたいんじゃないのかなあ、そう思いながらも元々聞いていた要望と違うイメージを、恐る恐る見せてみる。


『ちょっと.....




かっこよすぎ!!好きや!!!!!!!!』

すぐさま彼女が言った。
私が求めていたものはこれだと言わんばかりに、彼女は興奮気味に喜んでくれた。

自分ではこういう風にしようとは思いつきもしないから、打ち出してくれてありがたいと感謝してくれた。


『好き』の一言が聞けてほっとしながら、気づいた。

「自分では思いつきもしない」
のか。
本当は貴方はこうしたいんでしょ?って私は思ってたのに。


きっと、そんなもんなんだろう。

「こんなのが欲しい」って言いながらも、みんな本当に「何」が欲しいかなんてわかっていない。目の前に現れて初めて、「これ」が欲しかったと気づくのだろう。


私だってそう。

喜んでいる彼女の姿を前にして初めて、ああ、自分がしたかったのはこの人をときめかせることだったんだってわかったんだから。

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