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森鴎外『舞姫』 読んで感じたこと

エリート街道まっしぐらの主人公・豊太郎、亡き父の遺言を守り、母の教えに従い、神童と言われながらも自分を律して、仕事にも実直にまっすぐ進んだ先で、気づいた本当の自分。

日本を離れ、国の仕事としてドイツに来て、ドイツの美しい景色や大学の自由な環境によって、今までの自分が機械的に流されて、周りに順応することしか考えてなかったことに気づかされる。

自分を偽って、他の誘惑をシャットダウンしてただけで、自分の意志が強いわけではなかったとも思い至る。本当は自分は弱いんだ・・ここにすごい共感した。自分の事って自分が一番わかってるって思いがちだけど、実は周りに影響を受けすぎていたり、偽りの自分を本当だと錯覚してしまって、実は本当にやりたいこと、人生の目的を見失っているってパターン。

そんなときにエリスという美少女に出会ってしまう。二人は愛し合っていたが、周りからは変な噂を立てられて、ついには豊太郎は国の仕事を解雇される。しかし相沢謙吉という秘書官が助けをくれて、新聞社の通信員として仕事を得る。

そして新聞の原稿を書いたり、批評を書いたりするうちに知識の点と点が線になり、通信員としてジャーナリズムに目覚める。その腕が日本のお偉いさんに知れて、以前の国仕事よりも大任を勧めると相沢謙吉に言われる。そしてエリスとは別れろとも言われてしまう。

そしてある日大臣から「ロシアに向かうので一緒に来てほしい」と頼まれる。そこでの主人公が後悔するところにすげえ共感する。
自分は急な要請や頼み事をされた時、咄嗟に何も考えず引き受けてしまう。そして引き受けたからには後に引けないので、耐え忍んで苦労してやり遂げようとしてしまう。

神童と言われて育ち、周りからの期待も大きく、臆病で弱気な一面も持ち合わせており、取り繕ってOKと言ってしまう。ぼく自身は頭良かったわけでもないけど、空気に飲まれてしまう感じ、断れない性格、なんかすげえわかるわぁって思った。

自分の愚鈍さ、まっすぐ順調なときは良かったが、仕事とエリスのどちらかを選ばなければならないこういう状況に対して、自分の決心の鏡は途端に曇ってしまう。

まさか通信員から、また国の重要な仕事を任されることになるなんて想定もしていない そしてエリスの妊娠も発覚してしまう。

さらに大臣から「一緒に日本に帰らないか」と提案され、とても断れる空気でもなく、承諾してしまう。その後妊娠中のエリスがそのことを知って精神を病んでしまう。

愛するエリスとお腹の中の子供をドイツに残し、豊太郎は帰国するって話なんだけど、当時結構物議をかもしたらしいですね。主人公が無責任だとか言われて、舞姫論争が起きたそう。

そういう見方をする気持ちもわかるし、豊太郎の気持ちもわからんでもない。学力はいつも主席をとるほどの天才、エリート街道を歩んでいたからこそ、自分の意思の弱さと対峙するのに遅すぎた。

恋の引力によって自分の意志とは別に、大変なところまで結果として引っ張られてしまった。それが最悪の結果を生んでしまった。

人生って難しいなぁって感じました。小説としては短いのでサクッと読めます。

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