勇者大戦 地獄の毒々ゾンビ勇者 第4話


 家主に不幸のあった物件で一晩夜を明かした翌朝、人の気配を感じて目を開けるとテントの前に星さんが立っておられました。

「よう、よく寝られたか?」

「はい。ぐっすり快眠でございます」

 本当はアンデッドですので寝る必要はないのですがね。人間だったころの習慣で目を閉じてじっとしていただけでございます。
 もし、人間だったとしてもひどい臭いで寝られなかったでしょう。それは半死体の私の体臭も同様ですのでそこは我慢いたしましょうか。

「源さんのことだがよ」

 星さんは唐突に話題を切り出してこられました。

「はい。親切な方ですね。余裕のない生活状況で他人を気遣えるのは美徳かと」

「あまりその親切に甘えるなよ」

「……なにか理由が」

「昔、源さんはあんたみたいな【先祖返り】の支援活動をしてたんだ。NPO法人を立ち上げて」

「先祖返りとは?」

「あんたみたいなやつの事だよ」

 昨夜も話題に出ましたが、私のようなアンデッドが他にもいるという事でしょうか?
 NPO法人というものも分かりませんが、話の流れから慈善事業団の様な物でしょうか?それならばグラム王国にもありました。

 金を持て余した貴族の夫人が表向きの名声のために出資して教会の一部が炊き出しをやっていたような気がします。
 私のような困窮したネクロマンサーは警備の騎士に追い払われましたが。
 ……なにか聖女の姿が脳裏をちらついて嫌な気分になりました。

「最初はまっとうに活動してたんだがよ、なんか活動家みたいな連中が入り込んで乗っ取られちまったみたいなんだ」

 星さんは顔をしかめます。

「活動が生活の支援ではなくて、権利を訴えるデモばかりになってな。助成金を打ち切られてからは筋の悪いスポンサーも付くようになって、源さんも止めようとしたんだけれどついには追い出されちゃって、さらに嫌がらせをされて仕事も首になっちまった。」

 それで無宿者に落ちたというわけですか。

「ずいぶんと詳しいのですね」

「源さんとは長い付き合いでな。その頃のバイト先で知り合って、NPO法人には参加してなかったんだけど、ちょっと手助けしようとしたらおれも一緒に標的にされて……」

「そうでしたか」

「源さん。ほんとうは困っている人を助けたかっただけなのに途中からそれができなくなってたからな」

「なるほど。それで私のような初対面の者にも手を差し伸べてくれたわけですね」

「ああ。だから善意に付け込むような事だけはしないでくれ」

「……分かりました。今はご厚意に甘える事しかできませんがいずれこのお返しはいたしましょう」

 私は常に自分の事を鏡だと思っています。
 善意には善意を。悪意には悪意を返す。グラム王国では害意しか与えられなかったため周囲に悪意を振りまく結果になりましたがそれは本意ではないのです。

 グラム王国は弱者はさらに弱者を虐げる煉獄でしたがここの一部分は違うようです。弱者ゆえに弱者へと優しくする人たちの様です。
 まあ、まだあったばかりですので本心はわかりませんが。裏がある可能性もあります。
 それに対して分かり易い悪意しかなかった私の契約者様はどうしましょうねえ。

「そういう事だからよ。頼んだぜ」

 それだけ言うと星さんは立ち去っていきました。

 すると入れ替わるように源さんがやってきました。

「星のやつ何言ってたんだ?」

 星さんが立ち去っていくの見たのでしょう。源さんはそう聞いてきました。

「ここでの生活のちょっとしたアドバイスをしてくださったのですよ」

「ふーん、そうか。ところであんた金はあるのかい?」

「いえ、すべてとられてしまって」

 死亡した時に持っていた金は服と一緒に無くなっていましたし、そもそもグラム王国の硬貨が使えるとも思えません。

「じゃあ、少しだがよ。金を稼ぐ手段を教えてやる。来な」

 なるほど、何をするにも先立つものは必要です。星さんに釘をさされたばかりではありますがここはご厚意に甘えるとしましょう。

「ええ。よろしくお願いいたします」

 私はテントを出ると源さんにしたがって歩き始めました。


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