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又聞きで伝わる事こそが本音

又聞またぎき〉
間接的に聞くこと。

直接聞くよりも、又聞きの方が信憑性があるように感じることがある。



例えば、課長から直接「いつも頑張ってくれてるね。最近君は伸びてきたと思ってるんだよ」と言われたとする。
素直に嬉しい。

しかし、「褒めて伸びるタイプ」という部下の性質を見抜いたうえで、わざと大袈裟に褒めているのではないか、と感じたりもする。

それがもし、同僚と話す中で「そう言えば、課長があなたの事褒めてたな。仕事ぶりも真面目で信頼してるって言ってたよ」と課長が自分を褒めていたことを、間接的に知ったとする。

これは、課長がわたしに直接伝えようとして言ったわけではないため、これこそ忖度無しの課長の本音のような気がする。

この場合、実は又聞きである後者の方が嬉しいかもしれない。





某スポーツの女子日本代表チームの元監督は、選手のモチベーション向上のため、細かい気遣いをしていたと聞いた。

例えば、栗原選手を褒めたい時、直接伝えるのではなく、栗原選手と仲の良い大山選手に「栗原は最近調子上がってきてるよな」と、自然に伝える。

そうすると、大山選手は仲良しの栗原選手本人につい話したくなり、監督が褒めていたことを必ず伝えるものだ。

監督のお褒めの言葉が又聞きで伝わった栗原選手は、監督の本音に嬉しくなり、更にパフォーマンスが上がるらしい。

選手育成の場でも又聞きが活用されるほど、「又聞きで伝わる事こそが本音」だと誰しも感じているのだろう。





わたしは数年前、支店から本部へ異動になった。

元々支店のチームの中では、若手寄りの中堅、もしくは中堅寄りの若手、というポジションだった。
それが、異動した先の部署は、かなり上の役職の方、レジェンド級のベテラン、ある程度経験をしっかり積んだ先輩方ばかりで、わたしは断トツの末っ子となった。

歓送迎会にはかなり目上の方々も参加するため、御洒落で綺麗な良い宴会場が貸し切られた。

フリードリンクは、ビール、ワイン、焼酎、日本酒、ウイスキーなど種類豊富で、氷などの水割りセット、お湯割りセットも用意されていた。

ここは末っ子の出番だと張り切り、目上の方々に飲み物を聞いて回ると、皆さん揃ってハイボールをオーダーされた。
渾身のハイボールを作る。

氷をたっぷり入れたグラスにウイスキーを入れて、マドラーでくるくると回してウイスキーを十分冷やす。
そこへ静かに炭酸水を注いだ後は、とにかく炭酸が抜けないように。
そっと1回だけ縦にマドラーを入れ、沈んだウイスキーを掬い上げるように混ぜる。

よし。



流行りのハイボールだが、実はわたしはあまり飲まない。
ビールや焼酎はよく飲むが、ウイスキーだけは体質的に合わないのか、すぐ酔ってしまうからだ。

自分が飲まないので濃さには自信がなく、皆さんの好みの濃さも知らないので、「濃い薄いあったら仰ってくださいね〜」と言いながら、目上の皆さんにハイボールのグラスをお渡しした。

わたしは慣れない場に緊張もあったが、ビールが進むにつれてご機嫌になり、あっという間に宴はお開きとなった。





歓送迎会の翌朝。
職場では「昨日はお疲れ様でした〜」「ちゃんと帰れました?」「結構飲みましたよねぇ」といった会話が繰り広げられ、昨晩の余韻が残っていた。

ある先輩がわたしのところに寄ってきて、教えてくれた。
朝のエレベーターで目上の方と一緒になったが、二日酔いでグロッキーな様子でこう言ったらしい。

昨日あの子が作ったハイボールめちゃくちゃ濃かったで。
普段どんな濃い酒飲んどんや。



これは後に発覚することだが、わたしはハイボールを作る時の割合を、かなり間違えて認識していた。

ウイスキーと炭酸水、1対4が黄金比と言われるところを、わたしは6対4で割っていた。

黄金比のハイボールのアルコール度数が8度だとしたら、わたしが作ると24度になる。

間違えた認識の理由を辿ると、実家の父は焼酎派で、ハイボールを飲むことはなかったからだ。
わたしは昔から焼酎の水割りやお湯割りに親しみすぎるあまり、どんなお酒でも何かで割る際は6対4だと思い込んでいたのだ。

わたしは体質的にウイスキーに弱いのかと思っていたが、ただ割り方が濃すぎただけだった。






又聞きで伝わる事こそが本音。

あの子は普段どんな濃い酒飲んどんや。


後にも先にもその方から直接言われることはなかったこの言葉。


二日酔いの頭痛のように、紛れもない本音がズキンとわたしの胸に響いた。



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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「後悔と意欲のあいだ」

をお届けします

お楽しみに〜
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