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メンズクラブのお裾分け

わたしは一人暮らし。
自炊は苦手ではない。
晩御飯と合わせてビールを飲むことが多いため、ご飯が進むおかずというよりは、酒の肴としてのおかず作りが主だ。

料理とは言い難いが、冷奴はわたしの定番。
たんぱく質と水分が摂れ、お酒の相棒として有能だ。

以前行ったイタリアンのメニューに感銘を受けて創作したアレンジレシピがある。
冷奴の上に刻み青ネギを乗せ、その上にしらすをたっぷり乗せる。
そして、よくある市販のペペロンチーノのソースを3分の1ほど垂らす。

しらすペペロンやっこ。



他にも、有名な大衆食堂スタンドの人気メニューを丸パクリしたレシピがある。

冷奴に蒸し鶏を乗せ、森のようにパクチーを盛る。
そして、多めのみりんと酢醤油を混ぜたタレをかける。
よだれ鶏とエスニックと冷奴の融合。

パクチーよだれやっこ。



あらゆるやっこが日替わりで食卓の右手前を陣取る。
作り置きの煮浸しと、長芋の山葵漬けなんかを添えて。



天才やん、わたし



「すいませーん、ちょっとー!天才やわー!
道場六三郎かもしれんー!いやもう土井善晴ー!」

アルコールで気が大きくなったことも相まって、喋ったこともないご近所さんに自慢して回りそうになる。



ただ、これは誰でもない。
わたしの、わたしによる、わたしのための食卓。
自分の好みやコンディション、その日の気分や気候に合わせて作ったものだから、世界一美味しいと感じるのは当然のことだ。

部活終わりの男子高校生にとっては、麻婆茄子を白飯にバウンドさせてかき込むのが最高の食卓。
年頃の女性にとっては、お洒落なアヒージョにバゲットを浸すのが最高の食卓。

その中で、わたしがやっこ片手に徘徊したとて、ほとんどの人には響かない。






わたしがエッセイを書き始めたのは2021年8月1日。
このたび3周年を迎える。
誰に頼まれたわけでもないのに、「クセスゴエッセイ」と称し、しょうもない自身の日常と脳内を綴っている。

世の中には、ブログや日記、エッセイ、小説などを書いている方がたくさんいる。

海外体験記。
壮絶な人生を綴った自伝。
甘酸っぱくもほろ苦い恋愛小説。
美しい情景や心情を映したポエム。
お子さんの成長を綴ったようなホッコリ心温まるエピソード。

その中で、「すいませーん」と大声を出しながら、クセスゴエッセイを片手に徘徊したとて、ほとんどの人には響かない。


クセスゴエッセイを美味しく味わってくれる人がいればいいな。

そのためには、どうすればいいか。





より広い範囲を歩き回るしかない。



そうだ 文学フリマ、出店しよう




文学フリマとは、小説・俳句・詩・エッセイなどの作品を作り手自らの手で販売する、文学作品展示即売会である。
プロ・アマ、個人・会社等も問わず、参加者の年代は10代〜90代まで様々だ。
現在、九州〜北海道までの全国8箇所で、年合計9回開催されている。




たくさんの方が出店・来場する文学フリマにお散歩の場を移せば、今よりもう少しクセスゴエッセイが人の目に触れるかもしれない。



しかし、立ちはだかる壁が一つある。

わたしが勤めている会社では、会社の許可なく副業をすることは禁止されている。
副業の申請には上司を通して本部の決裁が必要だ。
会社の機密情報が洩れることはないか、副業に労力を費やすあまり本業が疎かになることはないか、といった観点も含め、判断されるようだ。

クセスゴエッセイの活動は会社に悪影響を与えるものではないが、こんなしょうもないエッセイごときに稟議はあげたくない。



文学フリマって副業になるのだろうか

職場の上司は、毎週土曜日に小学校の陸上クラブのコーチをしているらしい。
報酬も何もないただのボランティアだけどね、と話していた。

これは副業ではない。

そういえばわたしだって、吹奏楽団で活動していて、2年に1度はホールを借りて演奏会を開催している。
知名度も実力もない趣味の楽団なので、観客から入場料はいただかない。
ホールの使用料などは、演者が少しずつ出演料を拠出してまかなっている。

これは副業ではない。



こうなるともう目に映る人全てが、副業に該当するのか、気になって仕方がない。

パティスリーでパティシエとして働くのは、副業。
バレンタインに手作りチョコを配るのは、副業ではない。

農業で生計を立てるのは、副業。
家庭菜園で穫れすぎたじゃがいもをお裾分けするのは、副業ではない。

自動車ディーラーで働くのは、副業。
使わなくなったトミカを近所の子にあげるのは、副業ではない。

世の中の人間は二つに分けられる。
副業に該当する人間と、該当しない人間だ。


文学フリマはというと。
書籍を製作、販売し、代金として金銭を受け取るという行為は、副業とみなされても仕方ないだろう。

ならばどうするか。




わたしが幼少の頃、まだ健在だった祖父は、「麺'S CLUB(メンズクラブ)」という当時最新鋭の調理家電に夢中になった。
押出式製麺機という類のものらしく、粉と水などの材料を投入すると、捏ねられた生地が細い穴からニューっと麺になって出てくる。

祖父母の家に遊びに行くたびに、得意げに祖父がうどんやそばを作るというイベントに、孫のわたしたちが飽きだした頃。
祖父は3台目の麺'S CLUBを購入しようとしていた。

祖父の言い分はこうだ。

「1台目は自分で使うため。2台目はそれが壊れた時のため。そして3台目は、麺'S CLUBが欲しいという親戚が現れた時のため」

いや3台もいらんやろ。

祖母とわたしの両親、3人がかりで全力で止めにかかった。





よし、これでいこう

わたしは祖父の血を引いている。



エッセイ本を刷る。

自分のため。
限られた友達に配るため。

両手にも満たない部数。
あとは、若干の予備。

電車の中に置き忘れてしまった時のため。
雨漏りしてブヨブヨにふやけてしまった時のため。
お好み焼きソースで汚してしまった時のため。
空き巣に盗られた時のため。
通りすがりのヤギに食べられた時のため。
そして、そして、、、。

若干の予備のつもりが、もしもの事を考えて、あれよあれよと刷りすぎてしまった。


これは困った。

一人暮らし1Kの自宅には、在庫を置いておくスペースがない。



2024年9月8日(日)
12:00〜17:00
天満橋駅直通 OMMビル2F
入場無料・事前予約不要

文学フリマ大阪でお裾分けするしかない

困ったな。


誰か、クセスゴエッセイのお裾分け、貰ってくれませんか?

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