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プロローグ

ある晩のことだった。
人混みを避けて細い道へ折れると、両側をビルの壁面に挟まれた。
圧迫感など無視して奥へと進むと、わけもなく上を見た。
するとそこに白くまるいものが浮かんでいた。
こんなところで月が見えるなんて。
意外だったが、しかしすぐに気づいた。
それは月じゃない。
月に手足はないからだ。
たぶん兎だ。
月から落ちてきたのだろう。
間の抜けたやつだ。
嘆息が出そうになり、そこで突然我に返る。
ちがう。兎じゃない。
それは人だった。
月のように白く、兎のようにまるいそれは、器用にビルとビルの隙間に入り込んで、ゴミ山に派手に転がり落ちた。

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