見出し画像

春はあけぼの・命の賛歌

元旦の朝はやっぱり枕草子第一段。

読むたびに、この世はなんかステキ、そんな気持ちになります。古典の知識がまるでなくても、平安時代のどす黒い政権闘争など知らなくても、この段はなんとなくわかるんですよね。なんとなく感じるものがあるんですよね。

「春のあけぼののころ、空を見てください。中宮さま。紫っぽい雲の綺麗なこと。お日さまが昇ってくるのですね。山際が少しずつ白くなってゆく。こうやって一日は始まる。何があっても、どんなつらいことがあっても、道長のやつにどんなに虐められても、朝は必ず訪れるのです。中宮さまはあの雲のように、優雅に優雅に、輝いています」

清少納言は筆を動かしながら、お仕えする中宮さまのことだけを考えていたのだと思います。

中宮さまは父の死後、兄と弟が道長に追い落とされ、母は悲嘆のうちに病死。中宮さまが道長のいじめのターゲットになりました。恐ろしい政治闘争から逃れようと、一度は出家なさったのに、主上(一条天皇)に無理やりに后の座に連れ戻され……。一度は出家したのに子供まで生んで、と世間から非難ごうごう。

枕草子を読むうえで、中宮さまのこのような立場だけは頭に入れておかなければなりません。

「中宮さま、空の輝き、高貴な紫っぽい色の雲。やっぱり、春はあけぼのですよね。そして、中宮さま、夏の夜は蛍が最高。秋は夕暮れ時。おうちに急ぐカラスたちって、見ているだけで胸キュン。小さく見える雁の形も、なんか、オモシロイじゃありません?冬の早朝の寒さもかっこいい。炭火をおこしてあちこち急いで配って歩く女官たちの姿、チョー冬っぽくて素敵!それもすべて、生きているから見られる、その一瞬だけの光景……生きているからこそ……」

実家は焼け落ち、道長の画策で宮中から追い出され、親戚の家でひっそり暮らしていた「元后」中宮さまは、清少納言から届けられた枕草子の書き出しを読んで、生きる力を得たでしょう。

「どんなに今がつらくても、必ず春はめぐりくる、春のあけぼのを見る悦びは誰にも奪われない。生きている限り……」

中宮さまは悲しみと孤独の中、亡くなりましたが、枕草子の中に永遠に生き続けました。今も、これからも生き続けるでしょう。

中宮さまは清少納言にとって永遠の薔薇の花なのです!

枕草子第一段は、たんに四季の魅力を列挙しているのではありません。命の賛歌、つらいときも生き抜こう、というエールなのです。と……私は解釈しました。

20年以上、枕草子に関わり、勉強した結果、多くの学者が指摘しているように、この段は「命の賛歌」であると。

そして、この元旦、いつものように5時に起きて、あけぼのの空をしばし眺めて、枕草子第一段を音読しました。がん手術後2年目を無事迎えられた悦びを感じながら……。

私は古典が好き。生きる力をもらえるから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?