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日本のクラウドファンディング

小さな革命に着手した「草の葉ライブラリー」は、手作り制作の二冊の本を「キャンプファイヤー」と「レディフォー」という二つのクラウドファンディングに投ずるが、そもそもクラウドファンディングとはなんなのかをもっと深く学んでおこう。

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         クラウドファンディング革命

 サイバーエージェントの社員だった中山亮太郎はそのときベトナムに派遣され、急成長を遂げるベトナムでネットビジネスを打ち立てるために日夜奮闘していた。そんな繁忙の日々の休日、床屋で髪を切っているとき本社から電話がかかってくる。
「クラウドファンディング事業を立ち上げることが決まった。その子会社の社長をやってみないか」

 クラウドファンディングなるものは、中山のなかではまだ漠然としたものだったが、しかし新時代に登場した画期的なシステムだということがインプットされていたから、彼はその電話に即答するのだ。
「やります、すぐ日本に帰ります」

 こうして二〇一三年五月一日、Makuakeが設立されたのだが、この《Makuake》が世間の注目を浴びたのが、アニメ映画「この世界の片隅に」での仕事だろう。
 片淵須直監督の手になるこの映画は難産だった。製作実行委員会を立ち上げたものの四億円の製作資金が調達できない。そこでその段階からMakuakeがこの事業に加わるのだが、中山はそのあたりの経過を「クラウドファンディング革命」とタイトルさせた本のなかでこう書いている。

「映画製を完成させるためには数億の資金がかかる。その全額をMakuakeで集めるのが理想だが、しかしその力はない。そこでパイロットフイルム──試作品のイメージアニメを作るための資金二千万円程度ならば可能だ。パイロットフイルムができれば、より深くこの映画のイメージが他者に伝わり、法人から大きな額の出資も望める。そこで当時の日本にはない破格の目標金額2000万円でクラウドファンディングしてみた。すると3374人の支援者から3912万1920円もの資金を集めることができた」

 この資金でパイロットフイルムがつくられると、製作の資金3億円も調達できて「世界の片隅に」は完成した。その映画は、観客動員数210万人、興行収入30億円にも達する興行成績を上げるだけでなく、日本のあらゆる賞を総なめするほどだった。この偉業はMakuakeのクラウドファンディングから始まったということになるのだろう。中山はその本を次のよに締めくくっている。

「クラウドファンディンは、金融革命であり、流通革命であり、眠れる日本を目覚めさせるミッションである。現在は「作りたい人」と「作ってほしい人」をマッチングする仕組みだが、今後はさらに多様なものをマッチングさせていく。例えば「作りたい人」と「売りたい人」、「作りたい人」と「作るのを手伝いたい人」をマッチングさせる。新しいことを始めるのに必要な「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」「ノウハウ」などすべてをマッチングしていくシステムをつくり、それを日本国内だけでなく、世界の隅々まで広げていく」と。

 創業からすでに十年たった。しかし果たして中山が書いたとおりの展開になっているのだろうか。中山はクラウドファンディングとは「眠れる日本を目覚めさせるミッション」と書いた。クラウドファンディングとは社会を変革していく新しい革命の装置であると。その予言が現実となって進行、潜行していると、その装置はもうすでに数百人とか数千人ではなく、数万とか数十万もの人々を巻き込み、資金調達も数億、数十億の規模になっていくはずである。今日、なにか新しい事業を起こそうとする数千万から数億の資金が必要だ。さまざまな社会の悲劇に立ち向かっていくボランテイア活動にも、その悲劇が深ければ深いほど、数億から数十億の資金が必要だ。

 五年前、アニメ映画「この世界の片隅で」の企画に出会ったとき、Makuakeはその映画の製作資金四億円を調達できなった。五年の年月がたった今、その資金が調達できるようになったのだろうか。クラウドファンディングが「眠れる日本を目覚めさせるミッション」であるならば、Makuakeはもうパイロットフイルムをつくる資金ではなく、あのすぐれた映画そのものを製作する資金を調達できる規模に成長しているはずである。

 しかし現在のMakuakeには依然としてその力はない。Makuakeだけではない。あまた誕生した日本のクラウドファンディングのサイトどこにもその力はない。クラウドファンディングされる大半の物件の支援者といったら数十人で、多くて数百人、数千人もの支援者を集める物件はもう数えるほどしかない。そんなわけだから資金調達の額だって、大半が数十万、数百万円規模で、数千万円の資金調達した事例は数えるほどで、一億円に達したクラウドファンディングは奇跡の事件となる。

 眠れる日本を目覚めさせるミッションは、今、厳しい現実の壁に直面しているということなのだろう。その壁が突破できず、なにやら新商品や新事業を売り込むだけの、いわば広告宣伝のプレゼンテーションという領域にとどまっているように見える。悲劇を背負って立つボランテイア活動に取り組むクラウドファンディングにも、その悲劇そのものを切り開いていく資金などとうてい調達できない。この領域のクラウドファンディングもまた大きな壁に突き当たっている。

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